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手触りのある音楽をつくる。5人の作家が『若き見知らぬ者たち』に込めた想い①

2024年10月11(金)に公開を迎える『若き見知らぬ者たち』劇伴に携わった5人の作家が、内山拓也監督を囲み座談会を決行。制作の裏側やサウンドトラック完成後の所感など、濃厚なトークの模様を3回に分けてお届けします。

左から Christian Dinh Gulino、石川快、掛川陽介(オンライン参加)、内山拓也、松井亮、yasu2000

音楽と音そのものがミックスされるような劇伴を

石川快(以下、石川)
本日は映画『若き見知らぬ者たち』の劇伴に携わった皆さんにお集まりいただきました。ひとつよろしくお願いいたします。
今作の音楽監督・音楽プロデューサーをというお話を内山監督から頂いたのは、オフライン編集のころでしたね。

内山拓也(以下、内山)
撮影が終わったのが23年の10月頭で、そこから編集を始め、10月末の一番最初のラッシュ( 編集段階の試写のこと )で仮編集を観ていただいて。

石川
打ち合わせでは、4カ国の共作であることや楽曲のイメージを聞きました。印象的だったのは、日本映画のサウンドトラックとして海外の人が見たときに面白い仕掛けができないだろうか。日本のルーツを感じるような音を、とも仰っていました。監督とは何度かお仕事をご一緒していますが、いつも明確な音楽のイメージを持っていますよね。

内山
ケースバイケースで、編集をしていく中でどんな音楽にしようって膨らんでいくときと、最初からイメージを伝えてデモをつくってもらった上で撮影する場合もありますが、どちらかと言うと今回は前者です。
音のイメージはありましたが、撮影前や撮影中もそれを持ちながら撮り終えつつ、編集工程で探っていきました。石川さんとは日常に潜んでいる面白いと思った音や映画の音についてメールでよくやりとりをしていて。

石川
ですね。監督のやりたいことが伝わってきていたので、僕自身としても、いつか長編をご一緒するならと妄想を広げていました。

内山
過去にご一緒したCMやショートムービーのときから、環境音や効果音といった音楽以外の音もある種の音楽だと捉えて、録音・音響効果の方も巻き込みつつ、音楽と音そのものがミックスされるような制作をしてきました。
今回もそんな劇伴がつくれたらいいなと思ってお願いをしたんです。

石川
ありがとうございます。

石川快

ブラックホールから雅楽まで、心情を描く音探し

内山
いつも編集をするときは、フレーム単位でこんな音を、と細かくイメージサンプルをつけていくのですが、今回は難しかった。どんな音をどこにつけたらいいのか。そもそも本当に音楽が必要なのかどうかも悩みましたし、音楽ソフトやYouTubeをひたすら探る日もありました。そのような悩みや試行錯誤があったので、石川さんへのオファーも遅くなってしまいました。

石川
そうだったんですか。仮編集では宇宙やブラックホールをイメージしたような壮大な音などを当てていましたね。その音を聞きながら、これが劇中で鳴るとしたらどんな音だろう、どんなチームなら叶うだろうと考え始めました。監督の要望は各シーンの人物の心像や情景を描くような楽曲。
それを形にするならと、まずは監督と一緒に音作りをしたこともある松井亮さんに連絡をとりまして。

松井亮(以下、松井)
映画の仕事を一緒にやりたいよね、とずっと話はしてましたけど、まずはロードムービーかな、と勝手に思ってて(笑)
バンド出身やから、ギターをジャンジャカ鳴らすようなものを想像していたら、内山監督のサンプルがBPMなんか一切ないもので。これは一体なんの楽器でつくればいいんだろうかと。

石川
そうでした。ギターなのかシンセなのか分析から始まって。

松井
初めにポンと思いついたのが、オーケストラでコンサートが始まる前のチューニング音。良いけど西洋ベースになりすぎて違うね、と。そこから二人で話をしていて、この(チューニングの)音に似たものをと試したのが、雅楽の管楽器「笙/しょう」でした。

左:石川快/右:松井亮

石川
笙はのちのち繋がっていくアイディアとなりました。松井さん、楽器も買っていましたよね。

松井
シガー・ロスのヨンシーの手法ですが、バイオリンの弦を買ってきてエレキギターで弾いてみたり。大切なのは音程やコード感ではないような気がしたんです。

石川
わかります。フィーリングに合わせて演奏しながら寄り添っていく感覚というか。ChristianDinhGulinoさんは12月中旬からの参加と決まっていたので、先んじて掛川陽介さんにも加わってもらい、三人でトンマナを探っていきました。松井さんにはギターやストリングスからのアプローチ、掛川さんにはシンセベースのアンビエントの方向を、という具合です。

掛川陽介(以下、掛川)
昔のアンビエントの原盤を引っ張り出して勝手に当ててみたりね。ずいぶんと無茶振りをされたけど、普段は孤独な作業なので面白かったですよ(笑)。

掛川陽介(オンライン参加)

トライアンドエラーから生まれるマジックに賭けて

石川
作曲を複数人にお願いした大きな理由は、タイトなスケジュールに間に合わせるため。ダビングの段階で細かく詰めていく作業を丁寧にやりたかったので、何曲かずつ振り分けておいた方がいいという考えからです。

内山
パリで仕上げのダビングを行うことが決まっていて、通常よりも締切が早く工程も多かったんですよね。

松井
僕と掛川さんは初対面でしたが、それぞれ石川さんと付き合いがあるという関係性で。

石川
2人ともギターを通じた音作りを追求されていて、一緒に曲をつくったらマジックが生まれるのでは、という狙いがありました。最初に形になったのは「Roots」と「Wound」。どちらも冒頭に近いシーンで使用されている楽曲です。すでに試していた笙のサンプルに掛川さんのシンセサイザーや松井さんのギターノイズを重ね、さらに掛川さんがミックスしてバランスを取ってもらったもの。それを監督からオーケーをいただけたことで、ひとつのやり方として正解だったかな、と思うことができました。

内山
普段はやらない方法なんですか?

石川
ですね。ある楽曲を誰かに頼んだときに、それを別のミュージシャンに弾いてくださいとお願いすることはありますが、ゼロベースでこれを観てどう思いますか、と複数人にそれぞれ曲を書いてもらい、それをひとつにまとめてしまうような、ちょっと強引なやり方かもしれません。

松井
大事なのはミックスのバランスですよね。

石川
はい。楽器の抑揚を、こっちが出てきたら、こっちを引っ込ませる、みたいにバランスをとっていきました。予想通りに二人のコラボレーションが素晴らしく、サウンドトラック全体をつなぐ鍵になったと思います。(続く)


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Profile

・Christian Dihn Gulino(クリスチャン・ディン・グリーノ)
ロンドンはMegamen Productionを拠点に活動する作曲家、ピアニスト、キーボード奏者。Herbie Hancockに多大な影響を受け、Kylie Minogue、Roxy Music、Sam Smith、Jessie J、Jasmine Thompsonなどのアーティスト達のディレクターやキーボード奏者としてレコーディングやライブに参加。内山拓也作品には『余りある』においても一部劇伴音楽を担当した。ゲーム『FINAL FANTASY VII REBIRTH』や関根光才監督広告作品『Audi e-tron GT』など、近年は日本での活動も積極的に行なっている。24年7月にはロンドン、ハイドパークにて開催されたHans ZimmerとAndrea Bocelliのコンサートにてミュージックディレクターを担当した。

・松井亮
作曲家・編曲家、ギタリスト、音楽プロデューサー
1972年生まれ、京都府出身。95年に川瀬智子(現Tommy february)、奥田俊作と共にギタリストとしてthe brilliant green結成。97年にメジャーデビュー後、その“和製ブリット・ポップ”とも称された洗練されたサウンドが話題を呼び、98年5月『There will be love there~愛のある場所~』がオリコン1位を獲得する大ヒットを記録。2010年に脱退するまで計4枚のアルバムをリリース。その後も自身のmeistar名義でのソロ活動や数々の広告音楽の作曲、他アーティストの音楽プロデュースなど精力的に活動している。

・掛川陽介
DJ Synthesizer名義も含めたソロ、バンド Languageのメンバーとしての活動のほか、音楽制作ユニットtomisiroで映画、アニメ、ゲーム、ドラマのサウンドトラックや広告など数々の映像音楽を手がける。代表作に北野武監督『TAKESHI'S』、鶴巻和哉監督『龍の歯医者』(スタジオカラー制作)、『FINAL FANTASY VII REMAKE』シリーズなど。近年はテープ・レコーダー、フィールド・レコーダー、ペダル・エフェクターなどを使ったローテク、ローファイな手法で作品づくりをすることも多く、国内外のレーベルより作品の発表を続けている。オランダ Shimmering Moods Records(2022年)、Slow Tone Collages(2022年)、イタリアRohs! Records(2024年)から
アンビエント作品をリリース。

・石川 快
Producer / Music Supervisor
DJ、劇伴作曲家としてキャリアを始め、現在はBISHOP MUSICを拠点に国内外のネットワークを活かして広告〜ゲーム〜映画といった映像作品やレーベル、イベント、店舗など幅広いメディア〜体験へ向けた音楽をプロデュースする”音楽屋”。本作ではMusic Supervisorとして音楽監督的な役割を担いつつ、作曲家としても参加。本編映像の最終仕上げとしてパリで行われたダビングにも内山監督に同行した。

・yasu2000
1999年、DJとして渡米。現地でエンジニアリングに興味を持ち、The Institute of Audio Researchに通う。卒業後ブルックリンにあるブッシュウィックスタジオで2年間働き、ニック・ハードのアシスタントなどを務めたのち、2005年に帰国。その後、origami PRODUCTIONSが手がけるbig turtle STUDIOSのハウスエンジニアを務める。これまでに担当したアーティストはあいみょん、JUJU、藤原さくら、向井太一、GLIM SPANKY、Uru、TENDRE、Awesome City Club、U-zhaan、Nenashiら。

取材/編集:峰典子
写真:加藤友美子


■映画『若き見知らぬ者たち』2024年10月11日公開
オフィシャルサイト:http://youngstrangers.jp
映画公式note:https://note.com/youngstrangers
映画公式X(旧Twitter):https://twitter.com/youngstrangers
映画公式Instagram:https://www.instagram.com/youngstrangers_movie/
原案・脚本・監督:内山拓也
出演:磯村勇斗岸井ゆきの福山翔大 他 
製作:「若き見知らぬ者たち」製作委員会
企画・製作:カラーバード
企画協力:ハッチ
配給:クロックワークス
©2024 The Young Strangers Film Partners

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