ガーチム

私の知らない物語

私が先日バイトを卒業した時に、大好きな社員さんが私に書いてくれた手紙を読んだ。

私が31のアルバイトを始めたのはもう5年前のことになる。

私はバイト先でガーチムと呼ばれていて、そのあだ名を命名してくれたのが先輩シャケさんである。

「ガーチムが31のアルバイトとして入ってきたとき、私はシャケちゃんがバイトを卒業するのと同時に仕事を辞めようと思っていました。......」

手紙の冒頭部分。

んん?

仕事を辞めようと思っていました??

私からしたら衝撃の事実。そんな様子を微塵も感じさせず社員さんは働いていたから。この人は31で働くのが、接客が大好きなのだなあと思っていた。だから、冒頭を読んで目を見開いてしまった。私からしたら楽しそうに働いていた社員さんがなぜ辞めようと思っていたのか。

私がバイトとして入った店舗は当時、やる気のないアルバイト、ズルばかりする人、お客様に対して上から目線の人が多かったという。社員さんはアルバイトから社員になった人で、アルバイトの時からこの仕事が大好きだった。だからこそ、そういうずるい人たちを見てきて仕事に行くのが嫌になってしまった。大好きだった仕事が嫌いになってしまった、らしい。

だから、私の大好きな先輩シャケさんがお店を卒業するのと同時に仕事を辞めようと社員さんは考えていたという。

ちょうどその時期にやってきたのが、良くも悪くも私だったらしい。

「そんな時入ってきてくれたのがガーチムでした。人はズルイもの。人は自分勝手なもの。でもガーチムは違いました。真面目で、一生懸命で、素直で、明るくて、ガーチムはあの時本当に本当に私の心の支えになってくれました。こんな子がいるなら、もう少しこの仕事を信じてみてもいいかもしれない。もう少し仕事を続けてみてもいいかもしれない。そう思えるようになりました。そこから私の色々なことが好転していったと思います。......」

私が、心の支え??まさか。とんでもない。ただただ、私も31で働くのが大好きで、もちろん社員さんのことも大好きで、バイトはお金が発生しているから頑張って働かなくてはという気持ちだけだった。バイト歴が長くなってきて、頼られることも増え、スタッフリーダーにもなったけれど、一度もそんな話を社員さんから聞いたことはなかった。

私は社員さんが当時考えていたことを全く知らなかった。むしろ愛ゆえに社員さんのことを若干いじっていた。無邪気だった。反省。

良くも悪くも私は社員さんの人生を変えてしまったということなのだろうか。私が全く意図していなかったところで。

いや、人は人と関わることで、少なからずその人に影響を与えていて、逆に影響を受けているということなのかもしれない。


社員さんからの愛ある手紙を読んでびっくりしてしまった。


私の知らない物語が、そこにはあった。


伝えないと伝わらないことが世の中には沢山あるのだと。

私が接客好きになったのは社員さんのおかげであること。笑顔が素敵だとみんなに言われるのも社員さんあってのこと。社員さんに頼られるようになったのがすごく嬉しかったこと。

次は、私が社員さんの知らない物語を伝える番だ。

同じように手紙に綴ろう。


おわり。







私の将来のささやかな夢は愛のあるほっこりエッセイ本を出すことです。サポートしていただいたお金はエッセイ本を作るための費用にあてさせていただきます。