不登校変化グラフ

3 不登校に対してどうあるべきか 社会のこれから論 2

現金の支給について

 医療や将来の保障を手厚くしても、今のお金が足りなくなりそうで不安だという人も多いかもしれません。
 現在は失業した際に、雇用保険から失業給付金というものが出て、働いていた時の六割くらいのお金が毎月、働いていた長さに応じて半年から数年もらえます。なので、短い期間しか働いていない人など、本当に困ってる人にはこのお金が届きません。
 雇用保険も基本は税金を財源として全ての失業者に払われるべきでしょう。以前の給料に変わらず、一定額を一年間払うというような形でいいと思います。そこから先はまた別の社会保障になるでしょう。
 
 ここで、究極の社会保障である生活保護と、こういった社会保障の話をする際に必ず話題に上がるベーシックインカムについてふれる必要があります。
 ベーシックインカムとは誰でも一定額のお金が定期的に行政からもらえる制度です。一部の学者や論者の中にはベーシックインカムがあれば他の社会保障はいらないという立場を取る人もいます。
 私が考える不登校不安ゼロ社会は、手厚い社会保障を仕事と関係なく受けられるようにするというものなので、こういった社会保障をなくす代わりとしてのベーシックインカムは支持しません。ただ、手厚い社会保障と並行してベーシックインカムを行うことによって、社会保障がより機能しやすくなると考えています。
 生活保護を考えながらこの点を考えていきます。生活保護は働けない人が生活できる分のお金を支給される制度ですが、そこから再び働く状態に戻ってくるのがなかなかうまくいかないケースも多いようです。これには、生活保護には医療費が無料になる等現金以外にも手厚いケアがあり、生活保護ギリギリの収入の人と差が出てしまうためです。
 私が提唱する社会保障では、この生活保護と生活保護ギリギリの差が少ないものになります。医療費は誰でも安価で受けれて、重病には補助も出るので、生活保護受給者だけ無料にする必要はありません。税金は高収入な人ほど多くなるので、低収入な人は今まで社会保障に取られていたお金がいくらか浮き、生活に困る割合が減るはずです。
 さらに、ベーシックインカムをつけると少しの収入でもベーシックインカムを加えて生活していくことができるようになるでしょう。今まではある一定時間以上働かないと生活が成り立たなかったのが、それより短い労働時間でも何とか生活が成り立つようになるので、生活保護の受給者は減ることになります。

 ベーシックインカムは夢物語ではありません。フィンランドでは一部の人に月額約七万円を支給するベーシックインカムを試験的に導入しています。そこでは支給を受けた人のストレスが減っていることなどが報告されています。
 べーシックインカムは決してそれだけで生活ができる額である必要はありません。財政状況を見ながら少しずつ行っていけばいいでしょう。
 大事なのは手厚い社会保障を切れ目なく全ての人に行き渡らせることです。境や条件をつくって隙間をつくってはそこに落ちるかもしれない不安が生じてしまいます。それをなくすことが私の提唱する不登校不安ゼロ社会なのです。

 
財源や労働意欲などの問題について

 こういった手厚い社会保障を提案すると、人々の労働意欲が下がってしまうのではないか、財源はどうするんだといった批判が必ず聞かれます。
 労働意欲については、私の提唱する社会保障でも働いた方がたくさん稼げることには変わらないのでそれほど下がるとは思えません。確かに、セーフティネットが手厚くなり、その分の財源が累進課税のある税なので、今よりは貧富の差がマイルドになるでしょう。しかし、それでもたくさん稼いだ方が利益が大きいはずです。むしろ、貧困に陥った時に生活保護のみがセーフティネットな現状より貧困層の労働意欲が上がることが予想されます。
 年金や健康保険はそれが税金に代わるだけなので特に意識しなくていいですが、教育の無償化等は財源が必要になります。財源についてはその分増税をすることになるでしょう。手厚い社会保障というのは個人の生活不安を国家の財政不安に置き換えるものです。決してバラ色の社会ではありません。ただ、貧困にあえぐ人が増え、個人個人が常に生活不安に追わている現状よりはいいだろうと私は思います。
 おそらく労働等に関する道徳観念は今よりは求められることとなるでしょう。ただし、手厚い社会保障は決して低所得者だけに働くものではありません。貧困者だけを選別して付与する社会保障ではなく、全国民を選別なく手厚く保障するものですから、ほとんどの人にとって決して損ではありません。
 

不登校不安ゼロ社会で雇用はどうなる

 このような社会で雇用や就活がどう変化するかも述べておきましょう。
 企業は健康保険や年金の半額を払う必要がなくなり、人を雇う際の出費が少なくなるので人を雇いやすくなります。中小企業にとっては大きな利点でしょう。正規雇用と非正規雇用の境はなくなり、社会保障が充実してるので解雇もしやすくなります。
 おそらく大企業や公務員の人気は変わらないでしょう。勤務年数と共に給与を増やす必然性はなくなりますが、有望な人材を引き止めたいと思えば自然とそうなるでしょう。ただ、所得税が上がっている為に収入が増えるた時の税の上がり方も今より多くなります。
 社会保障が充実してるので、解雇になったり低収入でもそれなりに生きていけることになります。大企業等の優位は変わりませんが、増税で今よりはそういった人の収入は低くなります。中小企業と大企業の差は縮まるので、就活のプレッシャーは小さくなります。

普遍主義こそが不登校対策

 社会保障には選別主義と普遍主義という二つの考え方があります。
 選別主義とは手当が必要な人を選んでその人だけに給付する形式のものです。生活保護など日本の社会保障はこの形式が多くなっています。
 一方、普遍主義とは対象を選別せず全ての人に社会保障を給付する形式です。民主党政権時代の子ども手当てが分かりやすいでしょう。困っている人だけに給付するのでなく、全ての人に給付するのです。
 不登校が、九十年代後半の経済状況の悪化とそれによる中学生の将来不安によって引き起こされたという私の仮説が正しいとしたら、貧困に陥ってしまうという不安を減らす普遍主義が不登校の減少に効果があると考えられます。
 もちろんこれだけで不登校などでドロップアウトしてしまった人達の生きていく不安が全て解消するわけではありません。今までのそういった人への支援も継続していく必要があるでしょう。
 バブル崩壊以降に日本を覆う将来やっていけないかもしれない不安を社会保障を手厚くすることによって軽減する。これが私の考える不登校不安ゼロ社会です。
 この章での政策は財政社会学の井手英策先生などの考えを参考にしています。詳しく知りたい方は井出英策先生の本を読んでみてください。

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