情報の寿命

youhei_red

老舗ホームページ作成サービスであるYahoo!ジオシティーズが2019年3月末でサービス終了するとのニュースが報道され、1990年代~2000年代初頭、いわゆる #インターネット老人会 の世代に衝撃が走っている。かくいう私も1998年に大学のコンピュータリテラシーの講義でホームページ作成を初めて体験し、その魅力にとりつかれてジオシティーズにホームページを開設して
・テキストエディタを起動したらまずは<HTML></HTML>と書いて間に<HEAD>やら<BODY>やらガリガリ記述
・オリジナル曲をつくってMIDIを公開
・紙に色鉛筆で手書きしたイラストをスキャナでJPGにして公開
・ホームページのトップに、無料公開されているCGIカウンタを設置して訪問者数を日々チェック
などということをやっていた「もろ直撃の世代」なのだが、当時はインターネットが世間に普及しだした頃で、つくったホームページや公開したファイルが消滅するなんて夢にも思わず目をキラキラ輝かせていた時代である。
やがて2000年頃からeコマースという単語がテレビCMで流れるようになってインターネットサービスが普及し、官公庁や企業でホームページを持つのが当たり前になる時代に入るのだが、2000年代後半あたりからインターネットサービスプロバイダが「人気がないサービス、収益が出ないサービスを終了させる」という動きが目立つようになり、ネットゲームやブラウザゲームが普及すると「インターネットサービスは立ち上がるのが早いが終わるのも早い」という認識が広まったのである。2018年現在では、ローンチから数日で終了するインターネットサービスなんていうのも巷を賑わせたりしている。

技術的側面からいうと「インターネットサービスは立ち上がるのが早いが終わるのも早い」というのは自然なことで、
・インターネットからアクセス可能なWebサーバを立ち上げて、インターネットからアクセス可能なパーミッションを施したファイルをWebサーバにデプロイすればインターネットサービス開始できる
・上記ファイルのパーミッションをアクセス不可に変更するか、上記のWebサーバを停止させるだけでサービス終了できる
という、立ち上げたサービスはWebサーバ上でいくつかコマンドを打てば終了できてしまうのである。(あくまで技術的側面だけで、実際には終了させる前に総務省へのお伺いだの顧客のデータをどうするだのといった人間的側面での議論は必要なのだけど。)さらに最近はクラウドコンピューティングやXaaSが普及してインターネットサービスの立ち上げまでにかかる時間が飛躍的に短縮されており、極端に言えばインターネットサービスのアイデアとコンテンツ(文章・イラスト・音楽・データベース)の作成スキルとプロモーションのスキルさえあれば、思い立って数日でサービス開始して莫大な収益と顧客情報を稼ぎ、目標金額に到達したら運営トラブルが起きる前にサービス終了してとんずら、なんていう乱暴なビジネスさえ実現できてしまうのである。

さてここまでは前置きで、今回の記事で触れたいのはインターネットサービスが終了することで、そのサービスが抱えていたコンテンツ(ユーザデータ)が消失することである。親切なインターネットサービスは終了するときに別の類似サービスへのデータ移行手段を示してくれたりするが、実作業はサービス利用者が行うのが一般的であり、サービス提供者は定めた期日が来たらサービスが抱えていたコンテンツを削除するだけである。サービス利用者が適切な移行を行わなければ、その期日をもってサービス利用者のコンテンツは寿命を迎える。

ここで話をインターネットサービスからもっと壮大な世界に広げてみると、人類の歴史上、粘土板や紙といった「情報を記録し広めるためのメディア」が発明されてから、人類が保管するデータ量は右肩上がりに増えてきた。一度生成された情報は、それを記録するものが本であろうと新聞であろうと、未来永劫残すのが一般的だったのである。もちろん戦争や焚書による人為的な消失があるが、基本的にはつくった情報は人類の財産なのだから未来に残して将来活用できるようにする、という考え方が一般的だったのである。だからこそ現在、図書館に行けば戦前の新聞や、官報を第1号から読むことができるのである。

そして、人類はメディアの経年劣化を相手に長い戦いを続けている。みなさんも紙を長年保管していれば経験があると思うが、紙はいずれぼろぼろになって書いてある情報が読めなくなる。そこで国立国会図書館はデジタルコレクションというサービスを立ち上げ、歴史的資料をデジタル化して原著に触れることなく原著の情報を参照できるように推進しているし、街の図書館でも著作権法で認められた「保存のための図書館資料の複製」を実施して随時古いメディアから新しいメディアに情報を移し替えている。

ところが、情報産業が発達してきてから雲行きが怪しくなった。生成された情報が未来に残らないケースが増えてきたのだ。わかりやすい例だとゲームソフトがあるのだけど、日本でだいぶ古い世代のゲーム機、ファミリーコンピュータ・PCエンジン・セガマークIIIなど、1980年代頃にリリースされたハードウェア向けのゲームソフトが無数にあるのだけど、2018年現在、それらのゲームソフトで遊ぶことはできるだろうか?よほどの人気作であれば別のハードウェア向けに再販されることもあるが、そうでなければ歴史の闇に埋もれてしまって二度と日の目を見ることはない。メーカー側に「リリースしたソフト(カートリッジ上に記録したプログラム)を未来永劫残す」という意識が欠落していたのだ。さらにいえば情報産業界全体で「情報は近々の売上を確保するための商材に過ぎず、未来永劫残すという意識が欠落している」のだ。現在は官公庁や役所が出版した情報は、保存するような取り組みがなされているが、企業が出版した情報は保存され続けるとは限らない。そして企業では、保存する価値がなくコストだけがかかるとみなされた情報は躊躇なく削除される。

情報というものは、適切なメディアに記録され、適切に保存(メディア間の移行)を行えば、人間より寿命は長い。さらにいえば保存作業実施者(それが人なのか機械なのか異星人なのかはともかく)が存在する限りは寿命は無限なのだ。だからこそ現在、数百年前、数千年前に生成された情報であろうとも、適切に保存されているものは参照することができる。

そして人類は情報の寿命を無限に近づけるために新たなメディアを発明してきた。はるか昔は口伝でのみ伝えられてあっという間に欠落した情報が、粘土板の発明によって寿命が伸びたのである。パピルスや紙の発明によって粘土板よりも軽く落下に強いメディアに情報を記録し、情報の寿命はさらに伸びた。そして現在、ITの発達によってインターネット上のサーバに情報を電磁的に記録することで、ぼろぼろになる紙よりもさらに情報の寿命が伸びると期待されているのである。

実際、技術的側面から言えば、インターネット上のサーバはハードウェア老朽化に伴いリプレースが必要なのだが、リプレース時に新旧サーバ間で適切にデータ移行すれば、情報を保管し続けることができる。さらにサーバにバックアップやディザスタリカバリを施すことで、トラブルが起きても情報を保管し続けることができる。技術的側面については、人類が長年続けてきた「情報の寿命を無限に近づける」に沿った進化を続けているのである。

問題視すべきなのは、人間の都合によって情報の寿命を縮めていることである。前述のジオシティーズしかりゲームソフトしかり、である。もちろん寿命を縮める側にも言い分があって、最も大きな理由はコストである。紙であれば保存するためのスペースの確保が必要だし、インターネット上のサーバでは情報を保存するためのストレージを必要な容量だけ確保が必要で、いずれにせよ金がかかるのである。なので情報を保存するコストに対して、その情報を保存することによって得られるメリットが少なければ、情報を管理する企業は躊躇なく情報を削除する。もちろん企業努力と称して、別のサービスで利益をあげてコストを補填する、という取り組みはなされるだろうけれどそれにも限界がある。

Yahoo!ジオシティーズのサービス終了に伴い、インターネット上では「貴重な情報が失われる」という声も散見される。ホームページを保存するウェブアーカイブの代表例としてwebarchive国立国会図書館のWARPがあるが、いずれも全てのホームページを完全に保存できることは保障できない。おそらくはYahoo!ジオシティーズのホームページには、執筆者本人はすでに他界していてホームページだけが残っているものもあるだろう。それもサービス終了後には寿命を迎える。

さて、この記事を掲載したnoteというインターネットサービスは今後どうなるのか興味深い。情報の寿命をどこまで伸ばせるのか、ある日突然余命宣告が言い渡されるのか、見守りたいと思う。

ふと古傷がうずいたのだけど、フロッピーディスクの次の世代のメディアとしてCD-RやらMOやら出てきたときに、私はzipディスクという1枚あたり100MBか250MB保存できるものを選んで、容量の大きなデータはzipディスクに保存するようにしていたのだけど、ディスクも読み書き用ドライブもあっという間に電気屋で扱わなくなってしまって、データを保存した10年後くらいにディスクからデータを抜き出そうとしたときに、手元にドライブがなくて入手に苦労した覚えがある。VHS vs ベータや、Blu-ray vs HDDVDで負け組を選んでしまった人もデータの移し替えで難儀したんだろうなあ。

以上、少々metaな話題ではあるけれど、noteにて現在募集中の企画「 #コンテンツ会議 」のタグをつけてみる。

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