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2022年11月の記事一覧

世界が桜の花びらに包まれたみたいにふわふわひらひらに黴びてしまう話

世界が桜の花びらに包まれたみたいにふわふわひらひらに黴びてしまう話

桜黴

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202211122022

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最初の桜黴は、そこそこ人気だった。よくあるふわふわの刻みチョコをトッピングしたような廃工場の壁が発見されて、瞬く間にSNS映えする写真スポットとして広まった。淡い桃色が可愛らしいし、ふわふわ散る黴が幻想的でとても綺麗だったので、「桜黴」と命名された。

おかしな事になったのは二週間経った後だった。
それまでは何ともなかったのに、桜

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男が春画の女に囚われる話

男が春画の女に囚われる話

春画のある風景

202102251956

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ある男が中世の春画を買って家に飾った。
絵に特段興味がある訳でもなかったが、何か惹かれるものを感じたのだ。
毎日見て慣れ親しむ内に、はじめは変な顔だなあと思っていた女の顔と肢体が妙に色っぽく魅力的に思えてきた。なるほど、昔の人もこんなふうに想像を働かせたに違いない。
ある日、夢に春画の女が出てきた。朝見ると夢精していた。
それから毎晩のように春画

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スマホに謎のもやもやが住み着く話

スマホに謎のもやもやが住み着く話

202211022104

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夜中夜勤明けの昏睡から覚めると、スマホの液晶画面に得体の知れないもやもやしたものが住み着いていた。

寝ぼけて見る幻覚の類だろうとさほど気にせず放っておいたが、なかなか消えない。
もやもやはどろりとした粘体で、ほぼ透明に透けている。ぱっと見た印象では美容液の類のようにさらふわりとくびれて見えるのに、動きがやけに鈍いのだ。
意思を持った生命体の類では無いように思えた

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靴底の温もり

靴底の温もり

202002110526

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地下の温度はひどく鈍く重たい。

行き交う人々の華やげで気安げなさまを見ると、げに人の世は眩しく。
今の自分はいっそ幽霊か何かであれば良いと思う。
この臭気さえきっと届かないでいればと。
そうやって消え入りそうに沈む反面、
おのれ私だって、という気持ちもある。
今通り過ぎたサラリーマンの時計は、私が愛用していたブランドの廉価版だ。
今はもうこの手に無いけれど。

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