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空飛ぶストレート【短編】

ぼくは、大実験×プロポーズという企画に参加することになった。

ぼくと彼女の間には防音のしきりがあり、背中合わせに立つ。ぼくは、プロポーズの言葉を前に向かって叫ぶ。その言葉を伝言ゲームのようにリレーして、地球を一周させて、すぐ後ろの彼女に届けるという実験だ。

ロマンチックな企画に、彼女はうっとりしていた。

計算は次の通り。
赤道の周長は、40075km。

声が飛ぶ距離は、1180m。
1周に必要な人数は33961.8人。33962人が国を超えて集められ、配置された。
そう、海の上にも。

音の速さは、339m/秒。
1周に、118216秒≒32時間50分16秒かかることになる。

準備は整った。

気持ちを込めて、ぼくは叫んだ。
「ステキな貴女と出会えて幸せです。結婚してくださいーーー。」


ぼくと彼女は待った。32時間50分16秒。

時間だ。

声が飛んできた。

「ス、、、キ」


「ストレートね、、、」
彼女はがっかりした表情を浮かべた。


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