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【年齢のうた】yonige●「27歳」の繊細な心模様

ライヴをいろいろ観ました。まあライヴやフェス、イベントを観覧できるか否か、するかどうかというのは、こちらの都合も含めて縁や偶然という要素も大きいので、行きたくても行けないことも多いし、反対に興味をそそられるライヴが少ない時期もあるのですが。最近は多めですね。

で、先週観たのは、まずはカネコアヤノ。バンドともども、壮絶な演奏をするアーティストになっていました。圧倒された。


下田逸郎。近年いろいろあって自分が関心を持っていた人で、初めて生演奏を観に。ステージのそばの席に座ったこともあり、歌が生々しく入ってきて、それでいて心地よかった。現在76歳とのこと。


昨日は亀田誠治がプロデュースする日比谷音楽祭で、そのHibiya Dream Session2とSession3を観覧。

とくに惹かれたのは、まずはデビューから30年以上経過しているのに、過剰に煽り、唄いまくっていた田島貴男。


デビューから40年以上経過しているのに、清廉な歌を唄う佐野元春。


デビューから50年以上経過しているのに、歌声だけで異空間にしてしまう小田和正。


ほかには、スカパラのパフォーマンス、石川さゆりの歌も素晴らしかったし、Saucy Dogの石原慎也やTOMOO、SIRUPといった下の世代の人たちの歌も良かった。
そんな中で自分が心を激しく揺さぶられたのは先ほどの3アーティストでした。彼らがサヴァイヴしてきた理由をそこで見た気がしたくらいに。

亀田誠治は非常にクオリティの高いプロデュースワークをしてきている方で、それはレコーディング作品はもちろん、ライヴやこうしたイベントという生の場でもそうです。そして、たとえば田島が客席に対してクドいほど熱い煽りをぶつけていたのを「果たして終わるんだろうかと思ったんですけど」と笑っていたように、彼は才能豊かなアーティストの衝動や暴走を音楽という作品にどう収めるかに尽力してきたはず。で、先ほどの3人の音楽は、J-POP的な収まりのいい形ではつかまえきれないものだという事実が、それぞれのパフォーマンスに表れていたと僕は感じました。もちろんお三方ともポップソング然とした楽曲はあるけど、そういうところにピタリと着地させるのは並大抵のことではないのでは、と。
言い換えれば、あそこまでの破格の才能たちは、キレイに収めると面白くなくなる気がした。ということです。

また。別の話ですが……Dream Session3では、北村英治というクラリネット奏者の参加がありました。この人はなんと95歳とのことで、驚きました。僕、90代の人の演奏を生で観たのは、たぶん初めてですね(80代の方の演奏を観たこともほとんどない気が)。
この方は2曲目にスタンダードナンバーの「シング・シング・シング」の演奏に入っていて、その吹きっぷりはじつに颯爽としたもの。亀田プロデューサーはこの北村と14歳のドラマーYOYOKAを紹介して、「81歳の年齢差の共演なんてありえないよね」と言っていました。それはその通りだと思いました。

で、僕の脳裏をよぎったのは、実はこの日の昼にOAされた『NHKのど自慢』のこと。6月9日ののど自慢では、92歳の女性が堂々とした歌を聴かせていて(平浩二「わたしゃ百歳まで恋をする」を歌唱)本当にビックリしたのですが、その次の出番がなんと12歳の男の子で(Omoinotake「幾億光年」を歌唱)、80歳差の歌にビックリしたばかりでした。
まさか同じ日の夜のイベントで、今度はプロの81歳差の演奏を見ることになろうとは思わなんだ。

などと、ここで年齢ソングについて書いている自分は思った次第です。

今回はyonigeの「27歳」について書きます。

タフなサウンドであけすけな歌を唄うバンド、yonige


yonigeは女性ふたりから成るロックバンド。ヴォーカル&ギターは牛丸ありさ。ベースはごっきん。現在はサポートメンバー2人を入れての4人編成になっている(以前は3人編成だった)。

タフなバンド・サウンドと、牛丸によるあけすけな歌詞が乗る楽曲が魅力で、とくに初期の曲「アボカド」は大きな注目を集めたものだった。

その後、彼女たちはメジャーデビューして、大きな会場でライヴをしたり、さまざまなメディアに出演したり。
僕は2018年のミニアルバム『HOUSE』の頃にインタビューしたことがある。メジャーでやっていくことの難しさを認めながら、ふたりとも本当に正直に話してくれて、とても気持ちのいい取材だった。
このしばらくあと、僕は渋谷のあるお店でDJをした時に『HOUSE』収録の「リボルバー」をかけたものだ。


ただ、メジャーの水はあまり合わなかったということなのだろうか(あくまで僕の推測)。このバンドはやがてメジャーを離脱し、現在はインディーからのリリースに戻っている。

ここまでの間にはコロナ禍もあったりで、僕のほうは彼女たちと疎遠になってしまっていた。

そんな中でyonigeは年齢をタイトルにした曲をリリースしていた。
「27歳」である。

20代後半のリアルな心が唄われた「27歳」


yonigeの「27歳」は、『三千世界』という6曲入りのアルバムの最後に収録されている。

ミディアムテンポのギター・サウンドで、ちょっとレイジーな雰囲気とともに、独白のような歌詞が唄われる楽曲である。

リリースされた2021年8月は、牛丸がまだ26歳の時。翌9月に27歳になっているが、それを思うと、単純に彼女自身のことを唄った曲とは言い切れない。ただ、歌には、yonigeのほかの曲同様、リアルさがにじんでいる。

唄われているのは、見覚えのない町を懐かしく感じる主人公の気持ち。
僕と君の過去と未来。友達の声や夕立によって湧き上がる、いつか会いたい、帰りたいという気持ち。
そして、ひとりにはなれない今の自分と、遠い昔の記憶が邪魔をする、という言い方。牛丸のアンニュイな唄い方と、情景と自分の内心とを綴った言葉によって、こちらにストレートに入ってくる曲だ。

断定的には言えないが、おそらく牛丸は、20代後半の、(これもおそらく)女性の心模様をそっと唄ったのではないかと思う。
懐かしさを感じることや昔の記憶について言及しているのは、歌の主人公がそれだけの経験を積んできた年齢であることを示している。なので、ちょっとせつなさもあるし、ホロ苦さも感じる。
だけど聴いていて、いろいろあるだろうけど頑張って生きなよ、と素直に思える。それだけ、繊細な心の内が綴られている。そんな曲だ。

なんて、こちらもセンチになって聴いていたところ、この歌にはリミックスバージョンが存在して、そちらはまったく違う味わいになっていることを知った。
それがこちらである。


驚いた。音楽的にはエレクトロニカにストリングスを使ったものに変貌しているのはともかく、なんと歌詞も一変。
これはまた大胆な……ほとんど別の曲である。

唄われているのは、ウエストの細い女への意識や、箱根、熱海、城崎……。それに化粧とか生活費とか、昼休憩。難しい年頃?
ともかく主人公はOLになっていて、MVでは本人たちもビジネス仕様の恰好で出演している。


これはこれでリアルさがさらに増していて、サウンドも遊び心が広がっていて、もはやさっき書いたようなタフなバンド・サウンドだけではなくなっている。
そうか、今の彼女たちはこんななんだな、と思った。しばらく追ってなくて、申し訳ない。

そういえば先月紹介した河島英五の曲も27歳だった。性別問わず、20代後半は何かと心が揺らめく人が多い年頃ではないかと思う。
僭越ながら、僕も最初に就いた仕事を退職したのがこのぐらいの年齢の頃だった。


yonigeとは、またどこかで再会できればいいなと思う。
ひさしぶりにライヴを観れたとしたら、どんなバンドになっているのだろうか。

お台場にある塩ラーメン専門店
ひるがおの塩ラーメン、920円。
爽やかな風がそよぐテラス席で。
さっぱりしてて、良かった~


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