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おばあちゃんの特製あんこもち

よく年末年始にスーパーとかで大売り出しされている切り餅のパックを開封しながら思い出したのは、まだわたしに幼さが残っていたあの頃に食べた”あんころ餅”だった。
おばあちゃん特製のとびきりBIGで美味しいあんころ餅。
どっしりと重くて中に甘い粒あんがはち切れんばかりに詰め込まれていて、粉雪のように表面にまぶされた白い粉をわたしはずっと片栗粉だと思っていた。
年々大きくなるお餅を電子レンジでチンしてからオーブントースターで表面を焼いて、中はトロトロで外はカリッとした焼きあんころ餅を家族みんなで競うように食べた思い出がある。
おばあちゃんちには大きくてカーキ色と白のコントラストが昭和レトロなボディの電動餅つき機がある。わたしの記憶の中ではそこに蒸したもち米をいれると、コインランドリーのドラム式乾燥機が稼働している時に聞く轟音が部屋中に響き渡り、お餅を作り始めるのだ。

おばあちゃんちでは米や野菜を作っていたけれども、もち米はつくっていたか思い出せない。小さな区画でつくっていたかもしれないが、それだけでは足りないと思うのでたぶん遠方に住むわたしたちのためにわざわざ買って来てくれていたんだと思う。
おばあちゃんちでつきたてのお餅が食べられるのは夏休みだった。
そして手製の甘じょっぱい醤油だれや、おろし大根が入ったタレに浸して食べたりするのが定番だった。
頬が落ちるほど美味しいお餅を食べる機会が少ないわたしにとって本当に最高の体験だったし、いとこやおじさんおばさんたちの間に飛び交う方言の解読で当時のわたしの脳内は大乱闘が起きていた。ひと月という短い期間では方言の解読方法を会得するまでには至らなかったけれども、みんなの優しさに触れてお腹も心も大満足だった。

あの頃、フーフーと息を吹きかけながら食べた『おばあちゃん特製のとびきりBIGで美味しいあんころ餅』を、今はわたしの母が再現している。

母の作るあんころ餅は、やっぱり丸くて大人の手のひらよりも大きい。厚く中に詰まったあんこは健康を意識したものに変わっていて、国産小豆にレシピのものより20%減の砂糖でほんのりとした甘さの味付けに変更されている。

「お母さん、それ片栗粉?」
わたしが焼きたての切り餅に醤油をつけながら聞くと、
「これ、餅とり粉だね〜」
母はせっせとスケッパーを使って出来立ての餅を切り分ける手を止めずに答えた。
「え、そうなの?」
わたしは思わず醤油餅を食べようとした手を止めていた。

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