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どうして他人のお墓の話は面白いのか

昨日の「墓詣で」展に続いて、またお墓の話です。
すこし前に読んだ本のことから。

「お墓、どうしてます? キミコの巣ごもりぐるぐる日記」

タイトルに「お墓」とあると即反応してしまいます。

父が急逝し、突然お墓を用意する必要に迫られた著者。そこにコロナ禍の到来、さらには、当たらないだろうと思いつつ応募した市営墓地購入の抽選で、まさかの当選。
お墓、買うの? 誰が? ……私が!? はたして骨壺の運命やいかに!?
脱線上等、北国の迷える日々を綴る、笑いありしんみりありのゆるゆるエッセイ。

北大路公子さんは1963年生まれのエッセイストで北海道在住。集英社の雑誌「小説すばる」の連載(2020年4月~22年3月)を、加筆・修正した書籍で、昨年末に刊行されました。

お父様が1年半前に亡くなり、「キミコ、墓を買う。」と題してスタートする連載なのですが、初回から暗雲が立ち込めています。お父様のお墓を買うため、まずはお墓について学ぼうと始まったはずが、コロナ禍で企画が頓挫してしまうのです。

いきなり狭められた世界で、いわゆる「終活」をしてなかった父の遺産整理に向き合いつつ、お墓を思案しつつ。

決して忘れてるわけじゃないけど、どんどん季節が巡っていって……結局お墓は買えるのか? と一気に読み進めてしまいました。大事だと思っているからこそ、決められずに優先順位が下がっちゃう、日々の生活だって忙しい……分かります。

わたしたちもコロナ自粛生活を経験しているから、家族の日常やキミコさんのモノローグが「わかる~」って、共感できることばかり。

とりあえず市営霊園の抽選に応募→当たっちゃう、とか、お墓を見に行った墓石屋さんの対応とか、お墓あるある、ハウトゥなところもあって、お墓界隈ウォッチャーとして推したいポイントもしっかりあります。

結局、お墓を買うの?買わないの?ということよりも、タイトルが言うように「お墓、どうしてます?」と問いかけられてるんですよね。連載と変えたタイトルは絶妙です。そこには、みんな身近な人の死の後処理に向き合わざるを得ないよ、という本質もあって。それを軽いタッチで、先回りして、教えてくれているようでした。答えはまだ出なくても。

他人のお墓の話は面白い

勘違いさせてしまうといけないのですが、「面白い」というのは、「興味深い、心がひかれる」といった意味で使っています。

また、「お墓の話」の前提にはもちろん「死」もありますが、むしろ「生」の側面が語られることばかりだと思っています。エッセイで語るのは生きている人で、故人のことが語られても、それは生活の一部として今の思いが重なるからです。

そういえば、コロナ禍で人に直接会えないころ、わたしは同年代の知人・友人たちに、お墓の話を聞く機会がありました。Zoomで何人かがお墓について話してもいいよ、と言ってくれたので。

普段そのご家族のお墓の話なんて聞くことはないから、あえてそのことだけを聞いてみると……面白い(さっきの興味深いの意味で)!
当時の、ご家族の、その先の、深イイ話がどんどんでてきました。

他人にお墓事情をしっかり話せるだけあって、「お墓意識が高い」方たちだったとも言えますが、突然に大事な方を亡くされた方もいました。そうした話を聞くのは申し訳ない気持ちもありつつ、話してスッキリされてるようにも受け止められたし、なによりご供養の気持ちが伝わりました。

もちろん時と場所は選びますが、お墓って、じつは明るく話してもいい話題だし、情報は共有した方よいな、と思えて「おはかんり」での情報収集・発信がやりやすくもなりました。

影響力のあるエッセイストさんの本は、それを大勢に伝えられる手段でもあって、なるほどすでに評価もされてますが、もっと需要があるはずだとも思っています。

フィクションでも面白い

映画だって同じです。『お墓がない!』(1998年)という映画はそのものズバリ、岩下志麻さん主演のコメディです。

↓しっかり書いたつもりのレビューです。

お墓のことを真面目に考えれば考えるほど、傍から見たら笑えることもあり、生きることを考えることにもなり、あらためて良いテーマを持ってきたなぁ、と感心します。

人のエンディング周りで言うと、伊丹十三監督の『お葬式』(1984年)も喜劇と言える映画です。人が死んでただお葬式が執り行われる、それが得も言われぬドラマになっちゃうのです。

「死」は誰にも当たり前にあることだけど、その身に降りかかるのは身近な人を通じての体験になってしまい、そうそうあることではありません。自分の死のその後は、体験できない(かもしれない)しね。

知らないでおろおろしたり、後悔するくらいなら、エンタメでいいから事前に知る、考えるきっかけにできたらいいと思います。
本も映画も、フィクションもノンフィクションも、お墓とその周辺は、奥の深い沼ですよ。

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