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読書の醍醐味は書体にあり〜「文字の食卓」より

きのう参加した読書会に、わたしが持ち込んだ本です。

どんな本?

『文字の食卓』
著者:正木香子
2013年10月23日発売/本の雑誌社

10年前に出版された本のため、すでに在庫切れ、古本市場で入手するしかない貴重な本です。わたしは読書会のため、とりあえず図書館で借りて再読しました。

著者の正木香子さんは、本や雑誌、マンガなどあらゆる印刷物に「滋味豊かな書体」を求めて、幼いころから探究しつづけていたといいます。そんな著者によるウェブサイト「文字の食卓」にアップされたエッセイを再構成、加筆修正し、書籍化されたものです。

日本で印刷に使われてきた「写植書体」にスポットをあてて、その魅力と作品とのつながりを、著者なりに解き明かすエッセイスタイルとなっています。

なぜこの本を選んだか

開業準備にあたって、名刺、印鑑、表札、HP・・・文字をつかって自分で何かを表現するとき、なにを大切にしたいか、どんなことを伝えたいか、丁寧に向き合う必要性を感じたとき、この本を思い出しました。

この本を最初に読んだのは、はるか昔のこと。読んだことは覚えているものの、その記録をデータ上に見つけることはできませんでした。どうやら、消えてしまったブログ上だったみたい……。
当時の自分が、どうやってこの本に出会い、読んで何を学んだのか、気になるところではありますが、図書館で借りて、再読しました。

「滋味豊かな書体」とは

目次を見ると分かるとおり、全39書体を、食卓にならぶ食べ物になぞらえているのが、正木さんのオリジナリティです。その文字に対する印象が、彼女の記憶とリンクして、ほかの誰も表現できないものになっているのに、不思議と共感できてしまいます。

マニアックなほどの書体愛のみならず、感性と記憶とのつながり方が秀逸。著者がいう「滋味豊かな書体」へのあくなき探求が、読者を魅了するのです。

さらに、著者に近い読書体験をわたしたちもしていることに気づかされます。書体に着目はしていなかったけれど、引用され掲載されているのはいくつもの「見たことのある文字」でした。

たとえば、マンガ『ガラスの仮面』より
「紫のバラのひと…!」
数巻に一度くらい出てくる、主人公マヤの心の中の声をあらわすシーンです。印象的ですよね。ここで使われている書体は「ナール」というそうで、著者はこれを『卵の文字』と表現しています。まるくて温かい文字は、ディック・ブルーナの絵本『ふしぎなたまご』と同じ。「ナール」は世の中にあふれる決して珍しくない書体だそうですが、それでもこうして視覚としての文字からその温かみを共有できてたんだ、と知れた一例でした。

このように、わたしたちがよく知ってる本や雑誌、マンガから、印刷された文字の引用が次々とあらわれ、その文字の名前と周辺知識までもが明かされていきます。
名前を知ってしまったら、なんだか文字が愛おしくなるから不思議です。掲載された本、名作や絵本、マンガたちの文字に会いたくなりました。書体からの探求を自分もしてみたくなって、読書意欲を刺激するのです。

著者の良い意味で人並外れた文字への愛と知識をヒントにして、活字の読み方、見方に「書体」というエッセンスを加えてみたら、日本語がもっと好きになりそう。書体と本とのコラボレーションで、これからの読書の幅も広がりそうです。

もう一つ面白かったのが、和文書体の歴史やそれぞれの成り立ち、名前にも通ずる業界立ち位置のようなもの、写植文字の文化といった、別の側面です。日本の印刷の歴史にまで触れることとなりました。
そんな影響もあり、悩んでいた自分の名刺づくりへの後押しももらいました。わたしはどんな文字を使ったのか? という話へつづきます。

本からつながるリンク集

1冊の本からさらに広がる、つながる体験が待ってるのが、読書の楽しみでもありますよね。著者の最新刊がもうすぐ出るというナイスタイミングでもありました。

★「本の食卓」:現在、書籍出版以降のエッセイ(VOL.31〜40)を、サイト上で読むことができます。

★『文字と楽園〜精興社書体であじわう現代文学』(正木香子/2017年11月8日発売/本の雑誌社):精興社書体だけに特化して、現代文学を味わう、より深化した本。ちなみに、精興社フォントってこんな(見本帳 v1.1)です。 

★Web平凡『タイポグラフィ・ブギー・バック』:著者による最新著作が、2023年3月末に発売予定。その連載の第1回試し読み。

『タイポグラフィ・ブギー・バック  ぼくらの書体クロニクル』

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