島津製作所子会社の不正の裏にあるもの【一般には知られていない日本市場の歪み】

8/25に東京新聞が伝えた記事で、世間では「これはひどい!」「紛れもない詐欺だ」といった声が飛んでいる。
この事実だけを読めばその通りだし、不正を擁護するつもりもない。

しかし、この類の問題の裏には一般には知られていない市場の歪みがある。
ちなみに自分は、現在外資系医療機器メーカーで働いているので、その内情を少し書いてみたい。

耐用年数 vs 壊れるまで使う

医療機器にはメーカーの定めている耐用年数というものがあり、だいたい7年くらいで設定されていることが多い。しかし、日本では今回の記事の病院でも13年とあったように、実に倍近い年数を平気で使っていることがザラにあり、そのこと自体が異常という見方がある。

実際、外資メーカーにいると、これは日本市場の異常な点として、たびたび話題に上がる。外人から見ると「ぜんぜん意味がわからない」「なぜそんなことがまかり通っているのか」「買い替えを促せ」という話になって、カウンターパートのメンツが変わるたびにこの日本の特殊な状況を説明することになる(苦)。

というのも、海外では医療機器であれば耐用年数がくると壊れていなくても自動的に買い換えるのが普通だからだ。
ここには決定的な文化の違いがあるが、日本の「MOTTAINAI」、壊れるまで使うという文化も、適用場面を考えなければいけないと思うことがある。
海外では、もし老朽化した医療機器を使い続けていてそれが突然壊れ、患者の検査や治療が滞ったなんてことになれば、管理部門の責任が問われるし、最悪病院が訴えられたり、苦情・評判低下につながったりする。
なので、メーカーが「耐用年数がきました」と連絡すると、管理責任者は「教えてくれてありがとう。すぐ新しいのに更新しますわ」となる。
「ありがとう」なんて、日本では考えられない真逆の思考回路だ。
(そう考えると、海外の営業ってだいぶラクですね(小声))

さらにもうひとつのリスクとして、メーカーは古いモデルの部品供給は順次終了していくので、壊れた時にはもう部品がない、という事態だってありうる。
あわてて「今すぐ新しい装置に入れ替えてくれ!」と言われても、今ならたとえば「半導体不足で品薄になっておりまして・・・すぐにはお持ちできません」みたいなことになる。
だからメーカーは、販売中止モデルの修理サービス提供終了に関しても、一生懸命顧客に知らせているのだ。

年間メンテ契約 vs オンコール

さらに日本の病院がヤバいのは、どこもかしこも経営がジリ貧すぎて年間メンテ契約を結んでくれない施設が多いことだ。
年間メンテ契約には、当然定期点検も含まれている。
年2回とか予防的に点検を行って、指定の消耗パーツを定期的に交換することで、突然の故障が防げる。
「装置が壊れた!今すぐ来て!」とオンコールでいきなり呼ばれても、メンテ契約のある施設が当然優先になるから、すぐに駆けつけられない場合もあるが、そのことで「なんでだ!」と腹を立てる客がいる。
だったらメンテ契約結んでください、という話だ。
メンテ契約がないと、その都度正規の工賃と部品代と出張費がかかるので、故障の頻度と内容によってはメンテ契約を結ぶよりも合計金額が高くつくことがあるが、故障せずに安く済むほうに顧客は理屈なく賭けている。
Appleケアに入るか入らないか迷う、アレである(苦笑)
本当は、Appleケアと患者の治療に関わる医療機器の年間メンテ契約を一緒にしちゃいけない。

そうこうするうちに、装置はどんどん老朽化していき、ますますオンコールの頻度が増えていく。
年間で億単位の試薬・消耗品を購入してもらっている大きな顧客であれば、メーカー側も毎回は費用請求できず、場合によってはサービスで無料修理することもあるだろう状況は容易に目に浮かぶ。
こんなことをそこら中の病院でやられたら、当たり前だけどメーカーはリソースが回らない。
かくして、こんな装置は壊れて無くなってしまえばいいのに・・・という発想になってもなんらおかしくない構造になっているのだ。
もちろん、当該の病院がそのような状況であったかはわからない。

日本における医療機器の管理責任の所在

いずれにしても、ひとつ言えることは、仮にこの病院がこんな古い医療機器を使っていて本当に正しい検査結果を出せてたの?!と追求されたとしたら、海外なら言い訳できない立場に立たされると思う。

メーカー側は「耐用年数はとうに過ぎてるし、定期点検もやってないし、保証外です」といって終わりだと思う。
この状況は、実際に日本の病院でよくある。

今回の件は、エックス線で体内を撮影しながらモニターで映像を見る装置において、エックス線が出なくなったという話だけど、患者に使用している最中に切れたんだろうか?
もしそうだったとしたら患者にとって最悪だし、その瞬間医師は何を思っただろう?

以上、何か考えるきっかけになれば幸いです。

※取材等はお断り致しております。ご了承ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?