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遠隔授業でチャット議論した話
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けてデニムが入らなくなった。
群馬県民は車に乗るからただでさえ運動しないのに外から出られないとなると一大事だ。
簡単にいうとめっちゃ太った。
太ったら困る。あんなに買ったデニムはどうするんだ。
心が傷つくタイプのダメージデニムだ。
ご存知の通りコロナのせいで大学に行けない。
サークルも出会いもなくただ大学からの無機質なメールが来る日々だった。
うちの大学はオンライン授業も始まらずにいたが、ついにGW明け、遠隔授業がスタートした。
遠隔授業とはどんなものか?
動画配信や課題提出かと思いきや!
なんと授業の時間になったらみんなでサイトにログインしチャットで授業を進めるというものだ。
僕はこの取り組みを聞いた時愕然とした。
信じられん。
僕はまだしも大学に入ったばかりの1年生にチャットで授業しろなんて無理に決まってるだろどういう会議で決まったんだ普通に授業開始日を延期するか動画撮れと思う気持ちもあったが、何事も批判から入ると新たなものが見えなくなる。
物は試しだせっかくだから前向きに取り組むことにした。
しかし大学の連絡が全てテキストでくるというのは「漏れがあるかもしれない」という強い不安を常に抱かなければならない。
正直しんどい。
14:20。チャット授業が始まった。
僕は不安だったしゼミ長だったのでゼミLINEでみんなとグループ通話を繋ぎながら授業を受けた。
先生のタイピングを待つ時間がもどかしい、なんだかリズムのない不思議な授業だった。
議論のお題は「国際とは何か?」「付き合うのに重視するのは内面か外見か」という二つだ。
最初の議論「国際とは何か?」は漠然としすぎていて対面でやるのも難しい。
「付き合うのに重視するのは内面か外見か」は先生がこれを議論させて何を見ているのかわからなかった。
僕らは「先生が僕らの中の誰かと付き合いたいのかもしれない」という最低の予想を言い合いながらチャットで授業を受けた。
「外見か内面か」の議論ではゼミ生のほとんどが面食いということが発覚し、「好きな芸能人を質問すればいいんじゃない?」というファミレスの女子会みたいなことを言い出す子までいて非常にファンタスティックだった。
(彼女はオリエンテーションの時も同じ質問をしてきた。芸能人に固執しすぎている。)
チャットで進むから議論というよりお題の決まったツイッター状態になり授業は終わった。
なんだったんだというのが正直な感想である。
その後、せっかく電話も繋いだんだしみんなで情報共有をする時間をとった。
僕はプリントしたい書類があったので一度実家に帰ることにした。
車の音に気づいた子が言う。
「ねえ誰か車乗ってない?笑」
「あーごめん俺!プリントしに一旦実家に帰るから運転してる!」
電話越しにもわかった。一瞬、変な空気が流れた。
その後すぐにみんなが「あーそっか」「なるほどね笑」とリアクションを取る中、ちょっとチャラめの女子がこう言い放った。
「え、なにイキってんの?笑」
!!!!????
僕は目をかっぴらいてハッとした。
ああ!そうだ!僕は1年生だったんだ!!
そしてこの子らは18歳!!!
「実家」も「運転」もまだまだ珍しく、口にするには少し恥ずかしいが言ってみたいような!!!!
そんな年頃なのだ!!!!
そして僕は!!!そんな18歳のフリをして紛れ込む変態紳士なんだった!!!!!
もう僕はその新鮮な感覚を忘れてしまっていた。
もう3回も事故ってるし、車2代目だし、一人暮らし3年目だし、7回引越ししてるし目新しさなんてどこにもなかった。
とても自然に、今まで使ってきた言葉達と同じ温度で
「あーごめん俺!プリントしに一旦実家に帰るから運転してる!」
と言ってしまった僕は大学生になったからって「実家」や「車の運転」という “珍しいこと” を誇示する僕が一番嫌いなタイプの大学生になっていたのだ。
恥ずかしいばかりだ。
僕は「人間五十年天の内をくらぶれば夢幻の如くなり」と言いその場で切腹した。
強い風のふく5月の始まりだった。
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