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新聞業界の「未来予想図」がここに

 ちょうど10年前のことです。2012年9月、私は41歳で新聞社を休職し、英国への私費留学に踏み切りました。デジタル化の最前線の英国でニュースビジネスについて学びたい一心で、英国の代表的なジャーナリズムスクールがあるカーディフ大学に向かいました。

 当時、英国の全国紙は、保守系のデイリー・テレグラフとタイムズ、リベラル系のガーディアンとインディペンデントの計4紙。有料デジタル版を成功させていた経済紙フィナンシャル・タイムズとは対照的に、スマートフォンの普及などを背景に、軒並み前年同月比で10%前後の部数減少に直面していました。

 英国の新聞は1990年代以降、日本の新聞より一回り大きいブロードシートからタブロイド紙サイズに相次いで変わり、全頁カラーになっていました。平日には軟派な内容の第2部、週末にはマガジンが折り込まれ、日本の新聞に慣れた私の目には様々な魅力的なコンテンツがあったのですが、発行状況は厳しくなる一方でした。

 日英のメディア産業を比較すると、日本は英国の10年後を進んでいるように感じていましたが、どうやら2012年の英国の状況に近づきつつあるように見えます。新聞を長く支えてくれた「団塊の世代」などの減少が進む一方、デジタル版による若い世代の読者の開拓は思わしくないようです。

 こうしたニュースメディアの衰退の原因は何なのでしょう。その先には、ニュースの作り手である新聞各社の危機、それどころか健全な民主主義のために不可欠な良質のジャーナリズム「公益ニュース」の危機があります。

 スマートフォンによって一人ひとりがメディアになり、発信する時代になり、各国で世論形成が難しくなっています。各新聞社の「社益」、放送などの枠を超えて、国民社会の大きな「公益」を守り抜くために必要な対策は何なのでしょう。

 こうした大きな命題に向き合い、指針を示してくれたのが、2019年2月に英国政府が公表した調査報告書「ケアンクロス・レビュー」です。長文も読みごたえがありますが、概要(Executive Summary)だけでもぜひ! レビューでは、「公益ジャーナリズム」として、高コストで収益化が難しい①調査報道・キャンペーン報道②地方の行政機関・裁判所などの報道を挙げ、公的支援で持続可能にするよう提言しています。巨大テック企業との向き合い方など、メディアを取り巻く最新の課題も包括的に理解できます。

 私の見方は、詳しくは「月刊Journalism 2021年8月号」に寄稿しました。レビューの政策提言の内容は、三菱総合研究所が総務省に提出した日本語の報告書で確認できます。ニュースビジネスの改善策にしましても、レビューでデジタル化の全体像を理解したうえで考えたものは、理解していない時点からは変わってくるはずです。

 私は、英国初のビジネススクールとジャーナリズムスクールが合同で設置したメディア経営学専攻MBA(経営学修士)を、日本人で初めて修了しました。2014年に帰国して新聞社に復帰しました。ビジネス部門で担当事業のデジタル化、コンテンツ・マーケティングの新規事業の提案に努めました。

 2019年に退社してからは大学院の博士課程で研究を続けつつ、主にヨーロッパのニュースのビジネスモデルにも引き続き関心を寄せてきました。このnoteでは、デジタル時代の新業務のガイドブックや講習など、私がコツコツ見つけてきた海外の情報も発信していきます。デジタル化のリソースが限られる地方ニュースメディアの現場のお役に立てれば幸いです。

※主に英語の資料や動画を扱う予定です。今は翻訳ソフトのおかげで日本語で大意を理解していただけます。グーグルやクロームのアプリは日本語に変換してくれますし、話題の翻訳ソフト「DeepL」を使えばPDFファイルも翻訳できますので、ぜひ挑戦してみてください!

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