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腸内細菌のちからで害虫が農薬に強くなる仕組みを解明

腸内細菌のちからで害虫が農薬に強くなる仕組みを解明した

-共生細菌による農薬解毒を宿主昆虫が助けていた-

* 昆虫と共生細菌が助け合って農薬を解毒する仕組みを初めて解明
* 共生細菌の一つの遺伝子が、昆虫の農薬抵抗性に重要な因子であることを特定
* 共生細菌の農薬分解遺伝子を標的にした新たな害虫防除法の可能性

・Abstract

害虫が腸内の共生細菌との作用で農薬抵抗性を獲得する仕組みを初めて解明した。

害虫の農薬抵抗性において、腸内に共生する細菌による関与の仕組みは知られていない。産総研は他の機関と連携して、害虫カメムシの腸内で共生細菌がどのように農薬を解毒しているかを調査し、解毒に不可欠な共生細菌の遺伝子を特定した。

共生細菌はこの遺伝子により、害虫の体内に入った農薬を速やかに分解する。しかし、農薬の分解産物は共生細菌自身に対して毒性を持つことがわかった。

この物質は宿主である害虫に対しては無毒であり、害虫は速やかにこれを体外に排出する。その結果、共生細菌は農薬を解毒して、害虫の体内で生存し続けることができる。

今回、農薬解毒過程において、害虫と共生細菌が相互作用していることを発見した。


・Introduction

異なる2種の生物が共生することで、生物は全く新しい機能を獲得することがある。

その一例として、動植物が体内に有用な細菌を保持する「内部共生」が広く知られている。

産総研では、農業害虫のホソヘリカメムシが、有機リン系農薬であるフェニトロチオンを分解する微生物と共生することで(図1)、昆虫自身が農薬抵抗性を獲得する現象を発見した。

しかし、農薬分解に関わる共生細菌の遺伝子や、カメムシ体内における農薬の分解経路は明らかにできていなかった。


そこで、試験管で培養した共生細菌にフェニトロチオンを分解させ、その際に活性化している遺伝子を調べることで、5個の遺伝子が関係するフェニトロチオン分解経路を解明した(図2a上部“試験管培養時”)。

また、共生細菌はフェニトロチオンを分解できるが、分解産物(3M4N [3-メチル-4-ニトロフェノール])が共生細菌にとって強い毒性を持ち、生育を妨げることがわかった(図2b)。

すなわち、この共生細菌は、宿主である昆虫にとって有毒であるフェニトロチオンを分解することで、自身にとっての毒物を作るという、不合理な性質を示す。

一方、宿主昆虫にとって3M4Nは無害であることがわかった(図2c)。

フェニトロチオンの分解生成物質3M4Nは、ホソヘリカメムシの体内では共生細菌に作用することなく、速やかに除去されていることを示唆していた。

そこで、共生細菌が共生するホソヘリカメムシの消化管を摘出してフェニトロチオンの分解過程を調べたところ、フェニトロチオンが消化管内に浸透して分解された後、速やかに分解産物の3M4Nが消化管外に放出されることがわかった(図3a)。

また、ホソヘリカメムシの排泄物から3M4Nが検出され、3M4Nは昆虫体外にそのまま排泄されていることが明らかとなった(図3b)。

以上の結果から、共生細菌が農薬を分解し、その分解産物である有毒物質をホソヘリカメムシが速やかに除去していると結論づけた。

農薬の解毒に関して、宿主昆虫と共生細菌が共生関係を形成して、その関係がお互いの生存に寄与していると考えられる。

ホソヘリカメムシの体内では、共生細菌が持つ農薬分解経路の1番目の遺伝子(mpd)だけが発現していたことから(図2a中段)、農薬抵抗性に関係があるのはこの遺伝子のみであるとの仮説を立てることができる。

この仮説を検証するために、農薬分解経路の1番目と2番目の遺伝子をそれぞれ欠損させた遺伝子変異株を作成してホソヘリカメムシに共生させ(図4a、b)、農薬への抵抗性を調査した。

その結果、共生細菌が2番目の遺伝子を欠損していてもホソヘリカメムシは農薬抵抗性を得られるが、1番目の遺伝子であるmpdを欠損すると抵抗性を獲得できないことが明らかとなった(図4c)。

このことから、ホソヘリカメムシの農薬抵抗性には共生細菌の農薬分解経路の1番目の分解遺伝子が関係していることが証明された。

・参考文献


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