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顧客中心のプロセス〜それだけで良かったんだっけ?〜


〜〜ある新製品開発部署での出来事〜〜

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担当「ユーザーリサーチして、ペルソナ作って要件を固めて、設計して、評価した。どうやら新たな価値を提供できていそうだ。」
上司「で、これってどうやって利益になるんだっけ?」
担当「……。」
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新サービスを企画し、製品のプロトタイピングもした。ターゲットとなるエンドユーザーの反応も良さそう。しかし、上申しても経営陣のみならず、上司までも説得できず、開発にストップがかかってしまいました。様々ある社内の施策の中で、優先順位が低いと判断されたようです。結局、この企画した新製品は世に出ず、検討した内容も無駄になってしまいました……。

こういったこと、よくありませんか!?
あ、申し遅れました。はじめまして、NEWh の真行寺と申します。昨年(2023年)8月より、デザインコンサルティングファームから転職し、NEWh に参加させていただいております。
前職では、デザインコンサルタントとして、顧客企業と共に人間中心設計に基づいた製品開発や製品開発プロセス改善に携わっており、UI/UX にまつわるリサーチや要件定義、設計、評価を広く担当しておりました。
この経験を活かし、NEWh ではサービスデザイナーとして業務を行っております。

顧客中心のプロセスに問題があるのか?

前述のように一般的に、顧客中心のデザインプロセスにおいては、製品やサービスを企画するときは、デザインリサーチを通じて強い課題や潜在的なニーズを抱えるユーザーを探索し、その典型像としてペルソナを定義します。そこから、ペルソナの課題を解決したり、潜在ニーズを満たしたりする解決案を設計し、検証します。
一見すると価値ある製品・サービスを生み出せそうにも思えますが、なぜ前述のようなことが起こるのでしょうか?顧客中心のプロセスに何か問題があったのでしょうか?

顧客中心のプロセスに先立ち、市場を見極める必要がある

既存の事業や市場の枠組みの中で、新機能の提案やサービスの改善をするのであれば、前述のようなことに直面することは少ないでしょう。しかしながら、全く新たな製品やサービスを企画したり、ひいては新たな事業を構想する上では少なからず起こりがちです。特に大企業が望むような大きな規模のビジネスを構想するのであれば、往々にして直面するでしょう。
これは、個別具体的な強い課題や潜在的なニーズを追い求めても、そこには採算がとれる市場がなかったり、大企業のビジネスを満足させるだけの事業になり得なかったりするためです。新たな価値を提案するような企画を担当していると、目の前の製品やサービスを開発することを強く意識する一方、事業や市場をも創っているという意識が抜け落ちてしまいがちです(特に既存事業の規模が大きく永く続いており、固定的な開発プロセスが浸透しているような大企業では、事業や市場が所与のものとして捉えがちですよね。)。
新たな価値を提案する製品やサービスをデザインするということは、その価値を受け取る相手を探すとともに、それをビジネスとして成立させる試行錯誤の営みと分かち難く結びついているはずです。
ですので、どんな市場でどんな事業を作っていきたいから、どんなセグメントを顧客とするのか、(仮説でも良いので)その方針が、顧客中心のデザインプロセスを適用する段階、少なくともペルソナを作る段階で存在するべきでしょう。つまり、顧客中心のデザインプロセス自体に問題があるのではなく、プロセスを適用する前段階に問題があったと言えます。

ビジネスデザインとして:
ビジネスの成長や変化を想定した戦略のストーリーが必要

前述のように、新たな価値を提案する製品やサービスをデザインするということは、その価値を受け取る相手を探すとともに、それをビジネスとして成立させる試行錯誤の営みと分かち難く結びついているはずです。そこでは、初期の段階ではどのようなターゲットに向けて市場に参入し、どのような人々を巻き込みながら事業をどう展開していくかなど、その成長や変化を想定した戦略的なストーリーが必要となります。

サービスデザインとして:
ビジネスの成長のどの段階のペルソナなのか、強く意識する

翻って、新たな価値を提案する製品やサービス自体をデザインすること、特に、サービスデザインとしては、ターゲットとなるユーザー(≒ペルソナ)を固定的なものとして見るのではなく、ビジネスの成長に応じて、向き合う相手・中心とする顧客(ペルソナ)を変化させていく必要があります。言い換えると、設定したペルソナは、ビジネスの成長や変化のどの段階のものなのか、強く意識する必要があります。


事業のユーザーセグメントと製品・サービスのペルソナの関係

ユーザーセグメントの変化が伴う、ビジネスの成長パターン

では、ユーザーセグメントの変化が伴う成長や変化が考えうるのでしょうか?
ビジネスの成功事例をもとに、代表的なパターンを2つほど紹介したいと思います。

パターンその①:具体的な課題を出発点として、普遍的なニーズに昇華する
Airbnb
Airbnbは、2008年にサンフランシスコで創設されました。最初のアイデアは、大きな会議が開催される際にホテルの部屋が不足する問題を解決するため、自分たちのアパートにエアマットレスを置いて宿泊スペースを提供することでした。
この初期の成功後、オンラインでの予約システムを構築、世界中の人々が自宅を短期間貸し出すことができるプラットフォームが形成され、単体旅行客だけではなく家族旅行やビジネス用途の出張客のニーズも掴み、また、国際的な市場に進出することができました。
このように、当初は、大きな会議が開催される際の部屋不足という局所的な課題の解決からはじまりましたが、自宅を短期間貸し借りできる価値が、世界中の人々のニーズを捉え、市場を広げていきました。
この事例では、局所的な課題を出発点としながら、その課題を普遍的なニーズに抽象化し、市場を広げることに成功しました。

パターンその②:時代に即したニーズを捉え、手段を変化させる
Netflix
Netflixは、1997年に設立され、当初は、インターネットを通じてDVDを郵送でレンタルするサービスを提供していました。このビジネスモデルは、従来のビデオレンタル店に代わる新しい選択肢として注目を集めました。
2007年、Netflixはビジネスモデルを大きく転換し、オンラインでの映画やテレビ番組のストリーミングサービスを開始しました。この転換は、インターネット技術の進化と消費者の視聴習慣の変化に対応するためのものでした。これにより、Netflixは急速に成長し、世界中で利用者を増やしていきました。
2013年、Netflixは「ハウス・オブ・カード 野望の階段」をはじめとするオリジナルコンテンツの制作に乗り出しました。この戦略は、他のストリーミングサービスとの差別化を図るものでした。オリジナルコンテンツの成功は、Netflixを単なる配信プラットフォームから、影響力のあるコンテンツ制作会社へと変貌させました。また、ユーザーの視聴傾向を分析しコンテンツ制作に活かしたり、ユーザーの視聴履歴や好みに基づいてコンテンツを推薦したりし、利用者の満足度を高め、サービスの利用促進につなげています。
技術の進化と消費者のニーズの変化に柔軟に対応し、独自のコンテンツ制作と国際展開を推進することで、世界最大級のストリーミングサービスに成長しました。
この事例では、変化してく顧客像を時代に即したニーズとして捉え、その解決手段も変化させ、新たな市場を創造していった事例と言えるでしょう。

まとめ

  • 個別具体的な強い課題や潜在的なニーズを追い求めても、大企業のビジネスを満足させるだけの事業になりづらい

  • 新たな価値を提案する製品やサービスをデザインするということは、ビジネスとして成立させる試行錯誤の営みと分かち難く結びついている

  • そこで、ビジネスの成長や変化を想定した戦略的なストーリーが必要

  • そのとき、サービスデザインとしては、設定したペルソナは、ビジネスの成長や変化のどの段階のものなのか、強く意識する必要がある

  • ターゲットセグメントの変化が伴う、ビジネスの成長パターン

    • 局所的な課題を出発点としながら、普遍的なニーズに抽象化、市場を広げる

    • 時代に即したニーズを捉えるために手段を変化させ、新たな市場を創造する

最後に

本記事は、サービスデザインを生業とするものが、新規事業を開発する上で、顧客中心のデザインプロセスが、どうあるべきかという問題意識から執筆しました。
まだまだ考えが至らない点もあります。ぜひともご意見やご感想をいただけたら嬉しいです。

補足:人間中心設計について

製品やサービス、システムの設計プロセスにおいて、最終的なユーザーのニーズや視点を中心に置いて行われるアプローチや方法論です。この設計手法は、ユーザーのニーズや要求を理解し、そのニーズに基づいて製品やサービスを開発することを重視します。
JIS(JIS Z 8530:人間工学 人とシステムとのインタラクション インタラクティブシステムの人間中心設計(対応国際規格:ISO9241-210:2019))では、以下のプロセスを人間中心設計の活動としています。
本稿のテーマに関連して、この活動に入る前に「人間中心設計の計画」という段階が設定されています。明言されていないものの、この段階において、ビジネスに係る与件(どんな市場でどんな事業を作っていきたいか、どんなセグメントがユーザーとなりうるのか)を整理する余地がありそうです。

JIS(JIS Z 8530:人間工学 人とシステムとのインタラクション インタラクティブシステムの人間中心設計(対応国際規格:ISO9241-210:2019))


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