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「勉強はしんどいもの」という前提を疑えるか【386】

 以前、『学習する教室』を読んだ時に「保護者は宿題の内容ではなく、その有無で学校の評価をしてしまうことがある」ということが書かれていたのを見て、子どもたちが楽しそうに遊びながら学んでいると、実はその中に学びが含まれているにも関わらず、「本当に勉強しているのかな?」と感じる保護者が一定数いるのではないかと感じました。
 そこで、今日は私の経験といくつかのエビデンスをもとに、楽しく学ぶ上に学力向上があるということを書きたいと思います。

中学受験で得たものは?

 私は小学生の時に、親の勧めで中学受験をしました。小学5年生の終わり頃に、親から「今のうちに大学まである学校に入っておいた方が良い」と言われ、それから後のことは分からない私にとって、その判断に任せてその方が良いと思いました。そのため、6年生から始めようと思っていた地域のソフトボールを諦めて中学受験用の塾に通うことにしました。

 塾に通い始めると、友達と遊ぶことができない日が増えて、遊びに誘われても断らなければならないことが出てきました。幸い、当時の友達とはそれでも仲良くすることができましたが、毎週大量の宿題と授業毎にテストが行われ、上位と下位の3名が書き出されます。特に勉強が好きだったわけでもなく、チェックを通るためだけに問題集の答えを写して宿題テストのためだけに答えの並びを覚えていました。
 そんなことで実力が上がるはずもなく、結果的に中学受験では合格することができず、そのまま公立中学に進学しました。私がここで学んだことは、量をやっても質が伴っていなければあまり意味がないということです。

 このような経験から、中学受験について子ども自身が行きたいと思うような学校があって、本人が「ここに行きたい!」と強く思うようであればそれに向けて受験をするのも良いかもしれません。ただし、本人がどうしても無理だと思ったら途中で諦めるということもできる選択肢も残しておいた方が良いと思います。

量よりも質を重視すべきいくつかのエビデンス

 ここからは、数をたくさんやることよりも、学習する課題や宿題の質を重視すべきであることを示す証拠をいくつか紹介したいと思います。
 私はこういったエビデンスを用いて授業や宿題を設定しています。基本的には週に1度のレッスンと1週間の宿題を出していますが、質の高い学習内容になるように心がけています。

学習の質を高める要素

 自身の経験したこと、学習塾や公立高校での教える仕事から学んだこと、そしていくつかの文献などから、学習のおける最優先事項である「質を高めること」に関して、私が大切にしていることをまとめておきます。

・学習内容が現実世界の文脈に関連していること
 会話や作文で日本語力や各教科の理解を深める(ここに興味や関心などが学習に入ってくる)

・学習者が自分の成長のために取り組んでいること
 「何でこの課題をやるの?」と聞かれたら、「(自分の)〜ができるようになるため」と答えられるような状態、決して親や先生にやれと言われたからとならないようにする(成長が楽しさや面白さと関わってくる)

・自分の学習状況を生徒が説明できる
 私が担当する子どもたちで私自身が彼らの学習姿勢を測る時に使う質問が、「今の学習状況を自分の言葉で説明できるかどうか」です。主体性を奪われてきた子どもたちの場合、そこに必ず「お母さんが」「先生が」というようなワードが必ず入ってくる(宿題など授業時間外の学習の質に大きく影響する)

 子どもの主体性と学習の質には大きな関連があると考えられます。そのため、完全ではなくとも「自分で自分の学習状況をコントロールできているという認識」がどれぐらいあるのかを測り、その部分をよく観察するようにしています。
 そして、この考え方が重要であることの理由を説明していきます。

遊びの反対は鬱である

 以前、スチュアート・ブラウン博士の遊びの重要性について学んだことを記事にまとめたことがあるので読み返してみると、「目的もなくただそのことに集中する」ということが問題解決能力を大きく伸ばすことにつながることが分かります。そのため、何かを目的とした活動も大切なのですが、まずは学習内容に関する「遊び」のようなもの「没頭することを経験させ満足感を高め、その中で問題解決のための試行錯誤を学ばせることも忘れてはいけないと考えます。

 遊びというものは、決して学びと反対のものではなく、学びへの足場かけになると考えるのが良いということです。

認知科学と学習

 『学習する学校』には最近注目されている認知科学で判明したことを学習面にも取り入れていく必要があると書かれています。上に記事にはその部分をまとめたものが紹介されています。

 先述のとおり、人は精神的なコンディションが学習の効果に大きく影響することが認知科学の視点からもわかっています。私が書籍で読んだこととしては、ただ教科書やドリルに書いてあることを学んだだけでは、その内容はなかなか定着しないそうです。効果的な学習をするためには、現実世界のつながりが必要で、かつ本人がどのようなモチベーションで学んでいるかが重要です。

 好きなことはすぐに覚えられるけれど、苦手なことはなかなか覚えられないというように、脳が心地よいと感じている状態で学ぶことが重要だと考えられています。ここで、「勉強はしんどいものだ」という思い込みがあると、子どもたちが「快」の状態で学ぶ環境を整備することへの配慮が欠けていたり、そもそも子どもたちが楽しく学んでいることに疑問をもつことになります。

 もちろん、行動が先にあってその後に気持ちがついてくるという脳科学からの観点もありますが、あくまで本人を追い込んで学ばせることはよくないことは共通理解として持てると思います。

フィードバックと自己効力感

 こちらでは、『教育の効果』で書かれているフィードバックの効用とLOC(ローカス・オブ・コントロール)を紹介しています。

 私が授業の中で大切にしている「質を高めるための要素」として、学習の振り返りと成長による満足感の時間があります。
 「学習は自分のために」という言葉を発して、子どもたちは大人にあれこれと言われて取り組む状況から、「自分から学ぶ」という姿勢を身につけられるようにしています。
 そのために、学習が進むと定期的にフィードバックを行います。そうすることで、自らの考えや行動をもう一度見直すことができます。そういったアプローチを通して自分の学習を俯瞰し、学習をコントロールできるようにサポートしたいと思いがあります。

 フィードバックをすることの効用は、LOC(ローカス・オブ・コントロール)にも大きく影響します。これは、自らの行動を統制するものが内にあるのか(自己解決型)、外の他人のものなのか(他人依存型)を考える時用いられる概念で、外発的動機で学ぶ(自分が学びたいからとかではなく、親がやれというからなど)場合、学習への満足度はあまり高くならないことが分かっています。

まとめ

 私たちにはたくさんの前提となる価値観があります。意識したこともないような部分で当たり前だと思っていたことが、よく考えてみると実は違うのではないかということもあります。
 子どもたちの学習において、社会も大きく変化している中では問い直すべきことはたくさんあります。
 自分の経験や思い込みで子どもを犠牲にしないように、自分の考えを俯瞰したり、大人同士や時には子どもも含めて対話すること時間を取ることが必要です。そうすることで、私たちは社会の変化に伴って必要な変化を受け入れることができるようになっていきます。

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