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『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』第9章学校のビジョン【296】

 前回は、新たに第2部のスタートとして学校での倫理的な問いに関する重要性についてまとめました。そして今回の記事では、第9章「学校のビジョン」で書かれていたポイントについてまとめていきたいと思います。

学校のための共有ビジョン

 学校組織の中で、管理職者と教員、保護者やスタッフが一緒になって共通の目標に向かって進めるようにするにはどのようなアプローチが必要なのでしょうか。本書では、それぞれの立場の人が話し合える場を設けることがまずはスタート地点として重要だと書かれています。

自律とパートナーシップ

 学校での共有ビジョンを作るためには、一人ひとりが自律して行動できることが必要で、その上で学校関係者同士のパートナーシップが築かれることが重要だと考えられています。その具体的なイメージとして、現在の問題について明確に認知できているかどうか、自分たちが抱く深い希望や願望を口に出して話すことができるか、そして、学校外の関係者とも支援し合う関係を築き、学校の再生に共に取り組むことができるかどうかがあります。やはり、学校内部の人間が問題点やビジョンをオープンに口にできる環境と、外部の人とも協力し合える環境は不可欠だということがわかります。

学校の3つのイメージ

 ここでは、保護者と生徒、教員がそれぞれもつ学校についてもつ願望が異なることに気づくための取り組みが紹介されています。詳しくは、本書をご覧いただくと具体的な質問や進め方が書かれています。

 それぞれの立場から考える学校という空間に対する願望を比較した時に、3つの立場から見えている学校の捉え方が違うということに気づくことができます。また、その反対に共通点もいくつか見つけることができるので、相違点・共通点を合わせて新しいリストを考え出すことができます。

 また、応用セッションとして、「子どもの真実」について書かれているカードを使って、さらに学校についての捉え方を深めることができると紹介されています。こういった活動の中で、自分の中にある思い込みや前提に気づくことができ、「最近の子どもは何事も何かの枠の中でやらされることに慣れてしまっていないだろうか」といった現代の問題点につながるような問いかけもあると良いと考えられています。

コミュニティ・ビジョン・ミーティング

 学校の共有ビジョンを作るための活動として、「コミュニティ・ビジョン・ミーティング」が紹介されています。これは、いろんな立場の人が学校や子どもたちの問題について考え、心配事をブレーンストーミングし、各グループが重要だと思ったことを共有する中で共通している問題を発見することができたり、その問題に対しての学校の役割や保護者の役割について考えを深めていくという活動です。こちらも具体的には本書に明確に書かれているので、すぐに実践できます。
 また、「理想的な学校像」を言葉にしてそのイメージを具体化していくことで、よりビジョンが明確になっていくと考えられています。

パートナーを見つける

 「教える仕事は最も孤独な仕事の1つである」と書かれています。授業は基本的に一人で受け持つので、同じ学校で働いていても「他の教員と一緒に創造的な改革に関わる時間はなかなか持てない」という現実的な問題があります。それが学校で共有ビジョンが生み出せない理由だと書かれています。
 そのため、共に対話し新しい試みを試すことができるパートナーシップを学校で作る機会が求められています。

新しい教育リーダーシップ

 新しい教育を創り出すためには、これまでの当たり前を捨て去り、本当にこれから必要なものは何かという問いを答えていかなければなりません。そのため、産業化時代に象徴される高度経済成長期のような正解主義に基づいてトップダウンで素早く取り組むことよりも、基本理念についての対話に時間をかけ、民主的なシティズンシップををもつ責任ある市民として育つための教育について考える必要があります。

 そういった学校のリーダーは、管理職者がヒエラルキーのトップとしてリーダーシップを発揮するのではなく、どんな組織でもリーダーがいるという考えが重要だと指摘されていました。つまり、最初に述べた一人ひとりの自律が重要であるということです。

振り返る実践者

 教育実践は批判的な思考をもって振り返りを行って進めていく必要があると書かれています。つまり、「自分の仕事を見直し、自分の実験的な試みを体系的に、同時に、文化的・政治的・倫理的な文脈に照らして整理」することで、基本理念に立ち返りながら教育実践をさらに進めていくことができるのです。その際に、実践と理論が結合され強化されます。
 このように、自らの思い込みや前提にとらわれずに教育実践を行うためには、多様な考えを受け入れ、それをいかしていくことが大切だということを表しているということが理解できるのです。

<参考文献>
・ピーター・M・センゲ他著、リヒテルズ直子訳『学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』(英治出版、2014)

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