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IGCSE History「歴史」の評価(試験と評価規準)[404]

 これまでケンブリッジ式のカリキュラムIGCSEで学ぶ「歴史」について、シラバスや過去に出題された試験などを見て感じた魅力をまとめてきました。今回は、最終試験で出題される形式や評価規準についてまとめていきたいと思います。この評価方法を確認することで、学習の捉え方が変わる可能性が高くなります。私も、実際に国際バカロレアやIGCSEのカリキュラムの評価方法を学ぶことで、自分の授業での教え方や生徒に求めるアウトプットにも大きな変化がありました。

評価の概要

評価は学校ごとではなく、カリキュラムで統一

 これまでに述べてきたとおりですが、評価はとても重要です。なぜなら、評価規準に合わせて授業が構成されるのであり、試験が知識の定着のみを確認するような形式になっていると、授業もそれに合わせて知識をたくさん覚えることが重視されてしまうからです。
 これから紹介するIGCSEの歴史における評価規準では、歴史的な意義についてまとめる必要があるため、学んできたことを関連づける必要があるので学び方が授業の組み立ても変わってきます。日本における学校内での評価を取り囲む現状はとても複雑で、試験を担当者が作成したり、校内での教務規定、さらには大学入試などのいろいろな縛りが存在します。学校によって差はありますが、その辺りの違いがあるため簡単にいろんなことを変えるのは難しいかもしれませんが、評価方法を見直す参考にしていただけるとよいかと思います。

評価の概要

 全ての学習者は3つの評価を受けます。3つの評価とは、外部評価である”Paper1””Paper2”の2つと、3つ目は選択式になっており、”Component3”もしくは”Paper4”のどちらかを選択することになっています。また、評価のグレードはAからGとなっています。

Paper1(外部評価)

 "Paper1"の試験時間は2時間です。この試験では60点が満点となっており、評価全体の40%を占めています。試験ではセクションA(コアコンテンツ)から2つの質問に答えセクションB(探究学習)から1つの質問に答えます。

①セクションA(コアコンテンツ)
 ここでは8つの質問が用意されており、4つは選択A(19世紀)から出題され、残りの4つは選択B(20世紀)から出題されます。この中から2つを選択し回答します。

②セクションB(探究学習)
 ここでは5つの探究学習のそれぞれから2つの質問があります。この中から1つを選択し回答します。

 試験の形式はすべてエッセイとなっています。abcの3つのパートに分かれています。すべての質問は、評価目標1(AO1)評価目標(AO2)をテストすることになっています。AO1とは知識に関する問題で、AO2は因果関係や人物に関する信念などの歴史的な説明を求めます。

Paper2(外部評価)

 "Paper2"の試験は1時間45分(以前のカリキュラムでは2時間)です。この試験では40点が満点となっており、評価全体の30%を占めます。

 試験は「文書(資料)に関する質問」に回答する形式のものです。選択Aもしくは選択Bからの1つの所定のトピックについて、1つの質問を選択し回答します。資料は最大7個提示され、質問は5つのパートで構成されます。各質問では、評価目標AO1とAO3がテストされます。AO1は知識に関する問題、AO3は歴史的文脈における様々な情報源を用いて論述することです。

2024年の試験で指定されたテーマ

19世紀のコアコンテンツ(選択A)
• 1848 年に起こった革命の重要性 (3 月の試験 - インドのみ)
• 第一次世界大戦の原因 (6月試験)
• 19 世紀に国々はなぜ、そしてどのような影響で海外帝国を獲得し、拡大したのか(11月試験)

20世紀のコアコンテンツ(選択B)
• 1948 年から 1989 年頃までの東ヨーロッパに対するソ連の支配はどれほど安全でしたか? (3 月の試験 - インドのみ)
• 米国は共産主義の蔓延をどの程度効果的に抑え込んだか? (6月試験)
• 冷戦の責任は誰にあったのか? (11月試験)

2025年の試験で指定されたテーマ

19世紀のコアコンテンツ(選択A)
• なぜ米国で内戦が起こったのか、またその結果はどうなったのか(3 月の試験 - インドのみ)
• ドイツはどのようにして統一されたのか (6月試験)
• なぜ米国で内戦が起こったのか、またその結果はどうなったのか (11月試験)

20世紀のコアコンテンツ(選択B)
• 国際連盟はどの程度成功したのか (3 月の試験 - インドのみ)
• 国際連盟はどの程度成功したのか (6月試験)
• 1939 年にヨーロッパで戦争が勃発したのは、ヒトラーの外交政策にどの程度の責任があるのか (11月試験)

2026年の試験で指定されたテーマ

19世紀のコアコンテンツ(選択A)
• 19 世紀に国々はなぜ、そしてどのような影響で海外帝国を獲得し、拡大したのか
(3 月の試験 - インドのみ)
• なぜ米国で内戦が起こったのか、またその結果はどうなったのか (6月試験)
• イタリアはどのようにして統一されたのか (11月試験)

20世紀のコアコンテンツ(選択B)
• 米国は共産主義の蔓延をどの程度効果的に抑え込んだか (3 月の試験 - インドのみ)
• ベルサイユ条約は公平だったのか (6月試験)
• 米国は共産主義の蔓延をどの程度効果的に抑え込んだのか (11月試験)

Component3(内部評価と外部のモデレート)

 3つ目の評価については、先述の通り"Component3"もしくは"Paper4"を選択します。

 "Component3"では、40点が満点となり評価は全体の30%になります。こちらは内部評価になるので、試験として受けるのではなく課題論文を作成します。探究学習に基づいた課題論文は2000語までとなっています。

 文章は重要な問題について焦点が当てられており、単一の質問に基づいて行われなければならず、いくつかの質問に分けてはいけないとされています。さらに、この課題論文は評価目標のAO1とAO2をターゲットにしなければいけません。

エッセイのタイトル(例)

• ニューディール政策は 1941 年までの米国の歴史のどの程度の転換点になっていたのか
• 「ブレッチリーパークの仕事は第二次世界大戦中に非常に重要だった」についての話し合い
• キャンプ・デービッド会議は中東にとってどの程度の転換点となったのか
• 1866 年から 1881 年にかけてのニュージーランドのパリハカコミュニティの重要性を評価する
• 1895 年のアトランタ妥協はアメリカ黒人にとってどの程度の転換点だったのか
• フアン・ペロンはアルゼンチンにとってどれほど重要だったのか
• 1920年までに米国におけるセネカ・フォールズ条約の重要性

Paper4(外部評価)

 "Component3を選択しなかった場合は"Paper4"を受けます。
 Paper4の試験時間は1時間です。40点が満点で評価は全体の30%です。試験では、5つの探究学習における2つの質問のうち1つの質問に答えます。質問は(a)と(b)の2つの部分に分かれており、エッセイで回答します。(a)は評価目標AO1をテストし、指定された出来事や発展の特徴を論理的に説明する必要があります。(b)では評価目標AO2をテストし、指定された個人・組織・開発・出来事の重要性と異なる方法でその重要性をどのように評価できるのかについて述べます。

学問的誠実性についても、IB同様、参考にしたものは必ず明記し、自分の考えとして盗作するようなことはあってはならないとされています。

評価規準

 私が日本の社会科の評価で取り入れてほしいと思う部分はこの評価規準です。日本の場合は、大学入試や推薦入試なども踏まえた教務内規などがあるため、いきなり個々で新しい評価規準を採用して実践するのは難しいかもしれません。しかし、こういった観点があることを理解し、できるところから導入などができればよいのではないかと思います。私も最初は1つの課題からスタートし、少しずつ発展させて定期テストにも導入していました。まずは知るところからスタートで十分だと思います。

 評価は6段階あり、レベル5(40〜36)、レベル4(35〜27)、レベル3(26〜18)、レベル2(17〜9)、レベル1(8〜1)、レベル0(0)
となっています。それぞれの評価基準も示されています。

レベル5(40〜36)
・受験者は、関連性があり正確な文脈的知識を示し、選択し、効果的に活用します。
• 受験者は、適切に整理され、効果的に活用された幅広い関連情報を選択します。
• 受験者は、相互関係と幅広い文脈の重要性を十分に認識しながら、研究対象の社会、出来事、信念、人々、状況の主要な特徴、理由、結果、または変化の重要性について優れた理解を示します。
• 受験者は、関連性があり、効果的で、説得力があり、十分に裏付けられた議論や判断を一貫して行います。
• 受験者は、回答の残りの部分と完全に一致し、効果的に裏付けられた結論を導きます。

レベル4(35〜27)
• 受験者は、関連性が高く正確な文脈知識を実証し、選択し、効果的に活用します。
• 受験者は、一般的によく整理され、効果的に活用されている一連の関連情報を選択します。
• 受験者は、幅広い文脈をよく認識した上で、研究対象の社会、出来事、信念、人々、状況の主要な特徴、理由、結果、または変化の重要性について十分な理解を示します。
• 受験者は、研究対象の期間における相互関係についてある程度の理解を示します。
いくつかの場面で、受験者は関連性があり、効果的で、説得力があり、十分に裏付けられた議論や判断を下します。
• 受験者は、議論され、裏付けられた結論を下します。

レベル3(26〜18)
• 受験者は、関連する文脈的知識をいくつか示して選択し、回答のいくつかの部分に適切に展開して質問に対処します。
• 受験者は、主に関連のある情報を選択し、整理し、時には関連して展開します。
• 受験者は、広い文脈をある程度認識しながら、研究対象の社会、出来事、信念、人々、状況の主要な特徴、理由、結果、または変化について、妥当な理解を示します。
• 受験者は、構造化された記述と妥当な説明を作成します。
• 受験者は、いくつかの比較や関連付けを行います。
• 受験者は、ある程度の裏付けのある基本的な説明に基づいた結論を作成します。

レベル2(17〜9)
• 受験者は、限られた文脈知識を示します。
• 受験者は、関連する情報をいくつか選択して整理します。これは、いくつかの場面で適切に展開されます。
• 受験者は、研究対象の社会、出来事、信念、人々、状況の理由、結果、変化を特定して説明しながら、関連する主要な特徴をいくつか説明または語りますが、広い文脈に対する認識は限られています。
• 受験者は、説明や物語をある程度構成する能力を示します。
• 受験者は、明らかな比較やリンクをいくつか試みます。
• 受験者は、関連する結論を主張しますが、これらは説明も裏付けもされていません。

レベル1(8〜1)
• 受験者は関連する文脈的知識をほとんど示していません。
• 受験者は情報の選択と整理の能力が限られています。
• 受験者は関連する主要な特徴をいくつか説明または語ります。作品には関連する情報が少し含まれていますが、質問への回答という点では適切に展開されていません。

レベル0(0)
• 受験者は証拠を提出しないか、質問に答えていません。

まとめ〜生徒の回答を評価規準に照らして評価する

 このように評価規準が明確になっている中で、生徒の回答がどのレベルまで達しているのかを判断することができれば、論述問題に対応した評価と授業ができるようになります。「答えが決まっていないと正しく点数が付けられないのではないか」という心配もあるかもしれません。しかし、生徒の考えのプロセスそのものを評価することを学んだり、他の教員と評価規準について話し合う他、実際に同じ回答について評価した結果を照らし合わせるなどの対話を重ねることで、評価規準に合わせた正確な評価ができるようになっていきます。

 また、これと同時に考えなくてはならないことは「教員の業務における余白」です。私が勤めていた頃は、業務量があまりにも多いためにこのような慎重に判断することが必要な作業に費やす時間を取ることができませんでした。こういった新しいチャレンジをする先生に対して、そういったことをするから残業時間が長くなるんだと管理職から言われる先生も目にしたことがあります。

 IGCSEでは評価は外部で行われるので、教員が直接評価を下すことは日本の教員ほどはないと思いますが、それでも授業のために評価規準を理解しておく必要があります。日本の先生がこのような評価に対応できるよう、学んだり議論できる環境が整ってほしいと思います。

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