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「オランダ移住から3年」日記〜日本の外に家族で暮らすというのはどういうことか【273】

 2023年3月でオランダでの生活が3年を経過しました。日本とは異なる文化圏に家族で暮らし、まだ慣れないこともありますが、次第にオランダが「自分の居場所」という感覚が持てるようになりました。

 ありがたいことに、オランダに移ってから始めた仕事についても、今のところ大きな問題はなく続けることができています。
 今私が行っている仕事は、これまでの教員経験を活かしたものです。具体的には、就学前から高校生までの日本語学習サポートや日本に暮らす子どもたちの学習サポートなどを通じていろんな出会いを経験させてもらっています。
 その中で、改めて日本の学校教育、オランダ現地の学校、インターナショナルスクールの学びの違いや、それぞれのカリキュラムにある魅力を日々感じています。

 そして私たち家族が日本を離れ、オランダでの生活をしたことで得たもの失ったものがあることに気づきました。今日はそれらについてまとめ、海外生活における子育てのメリットやリスクについて、最近私が読んだ『サードカルチャーキッズ 多文化の間で生きる子どもたち』の内容と合わせて記録していきたいと思います。

海外生活で得たもの

オランダで出会った人々

 オランダでの生活をスタートしてから、ここでしかできない出会いをたくさん経験しました。
 オランダに生まれそのままオランダに暮らす人々、日本から移住して知り合った人たちや、その他の国から来た人たちとの出会いがありました。

 「オランダに来てよかったかどうか」について、私はここでしか会えない人たちとの出会いによって、オランダに生活拠点を移して良かったと心から思っています。

 また、日本にいた時は大阪・京都が生活拠点でした。そのため、私の周りの人たちは大抵が関西出身の方で、考えていることや経験したことが似ているため、安心感もありましたがあまり刺激はありませんでした。
 それに対して、オランダで知り合う日本人の方々は同じ日本人でも出身も育ってきた環境もバラバラです。そんなより多様な環境で育ってきた人たちとの出会いで学んだことはたくさんありました。

日本と異なる価値観に触れられた

 日本で教員をしている時は、もっと良い教育実践をしたいと思っていても何を参考にすべきかがはっきりとせず、自分の視野の狭さを強く感じました。
 オランダに移住してからは、日本では経験できないようなことや出会いがたくさんあり、自身の価値観が広がったように感じます。言語が異なれば文化も異なり、社会を構成する人たちの考え方も日本とは違います。
 バケーションで休むときはしっかり休む、家族や子どもとたくさん対話をする、何か問題があってもまあこういうこともあるかと考えること、何かの肩書きに頼るのではなく「自分らしくいる」ことなど、幸せに生きていくために必要ないろんなことを学ぶことができました。

 そこから、日本人として生きてきた自分が誇れるもの(ストイックさや行き届いた配慮、協調性など)、逆に足りないもの(生活のバランス感覚、メンタルヘルス、自分という軸が弱い、深い思考力、対話力など)が見えてきました。
 現在の私のEdubleでの教育実践は、これまでの教員経験とオランダで新しく培った価値観を合わせたものに基づいています。

海外生活で失ったもの

 昨年の冬、オランダに移住して以来初めての日本への一時帰国をしました。その時に私自身、日本に3年も離れていたので景色や人の会話などいろんなものに違和感を感じました。

 これは感覚的な話になってしまいますが、私は日本にずっと住んでいたのだけれど、何かが抜け落ちたような感覚がありました。
 それは日本にいるけれど、ちょっとだけ自分達の場所じゃないような、オランダにいたのが夢のようなんだけれども現実的な感覚として残っているというような不思議な気持ちを体験しました。

 32年間日本で生きて、その後たった3年海外で生活するだけでも、何とも言えない喪失感のうようなものを感じました。
 空港から日本での滞在先に向かう途中の電車から外の景色を見たときに、自分の中の日本にいなかった期間について、こんな感覚になるのかと思いました。

得たものと失ったものは合わせて考える

 私が海外生活をした3年間、日本では学べないたくさんのことを学び、世界のこと、教育のこと、人の幸せなどについて、視野が広がったと感じます。それとは同時に、日本での3年間は抜け落ちてしまいますが、それは少しグローバルな感覚が身についたということを示しているのだと感じました。

 ただ私は日本の教育を受け、日本で働いた経験もあるので、いずれ本帰国し日本で働くことになってもそんなに困ることはないかもしれません。むしろ本帰国した際は、少しだけ広がった教育を見る視野を活かして日本社会がよりよくなっていくために貢献したいと考えています。

 しかし、幼い頃にオランダに移り、オランダの教育を受け、オランダ社会で暮らす期間の長い娘はどんな感覚になるのでしょうか?
 私はそのことについて、きっと子どもと大人とでは感じ方が全く異なるだろうから、いろいろ調べてみる必要があると感じました。

海外生活を子どもの立場で考えてみる

 両親が日本人で、家庭での言語は日本語であるけれどもオランダ生活が長くなっていく私の娘は、これからどんなアイデンティティーを作っていくのでしょうか。
 子どもの頃に異文化社会での生活を経験することは、思考の深さや対人関係のバランスなどのメリットをもたらすと言われます。しかし、その成長過程の中で、自分はどこの国の人で、どこの文化を尊重しているのかが分からなくなり不安になることもあるのではないかと感じました。

 そして、私は海外生活に入る前に妻が読んでいた『サードカルチャーキッズ 多文化の間で生きる子どもたち』を読むことにしました。

『サードカルチャーキッズ 多文化の間で生きる子どもたち』とはどういう本なのか?

デビッド・C.ポロック、ルース=ヴァン・リーケン著、嘉納もも、日部八重子訳『サードカルチャーキッズ 多文化の間で生きる子どもたち』(スリーエーネットワーク、2010)

 複数の文化を知りながら育つことには大きなメリットがあります。これはバイリンガル教育の研究でも言われていることです。

 しかし、多様な環境下で暮らすからこそ起こる問題もあるということを私たち大人は理解しておかなくてはいけません。果たしてそれはどんなことなのか、それについて詳しく書かれているのが本書です。

海外で暮らすことのメリットを最大限に活かしつつ、デメリットの部分は親の努力で最小限に抑えるのはとても重要なことだと思いました。

この書籍だけは海外生活を考える親に必ず読んでほしい!

 私は日頃、自分が良かったと思う本をあまり他の人に薦めたりしないのですが、この書籍だけはこれから海外生活を迎える方々、海外生活での子育てについて悩んでおられる方、または親自身が海外生活の経験があってご自身のアイデンティティーについて何らかの疑問を持っている方に見ていただきたいと思います。

 もちろん、海外生活をするわけではないが、子育てについて学びたいと思っておられる方にも学ぶべきことがあるように感じました。
 私自身も海外での子育てについて学んだとともに、日本での幼少期の体験が今の自分に大きな影響を与えていることが分かりました。親の心の在り方、子どもの心を考える時には、この著書は良き羅針盤となると思います。

 それでは次回はこの著書の魅力についてもう少しまとめていきたいと思います。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

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