【第26話】イノシシよ、今から君を仕留めます①
◇見方によっては、もっとも残酷なシーン
ついにこの日が来た。初めて「止めさし」の現場に立ち会うのである。
止めさしとは、わなに掛かった獲物にとどめを刺すという狩猟用語だ。わなや網にかかった獣はすぐには死なない。だから早くラクに死なせてあげる目的と、あとは(今となってはこちらの方が優先順位が高いかもしれないが)大事な商品である肉が傷まないようにする目的がある。何日も暴れて怪我をしたり、乳酸が溜まりまくった肉は目も当てられない。
見方によっては、残酷なシーンだろう。
動物の命を奪うことに心を痛め、菜食主義者に転身する人も少なくないみたいだし。それも一つの選択。でも自分は、そうは思えないんだよなぁ。動物はダメでも、植物ならOKなのか。植物が傷みを感じないとは断言できない。彼らは切ってもまた生えてくるから、殺したことにならないとか? だとしたら根ごと抜いちゃう大根はダメでしょ。逆に、菌糸が木の中で繋がっているシイタケは、根絶やしにしない限り殺したことにはならない? じゃあシイタケ1本1本の個性は無視されるのか?? 株で分かれている水菜は?
っつーか、命の単位なんてどこで区切ったらいいのか分かんないよ!
紆余曲折を経て、「だったら全部平等に喰っちゃえ」というのが自分の結論だ。ただし「己が生きるために相手を殺す」という業をきちんと背負った上で。背負ったつもりになって、いったい何になる? 分かりまへん。きっとこれは趣味の問題でしょう。
業をギンギンに感じるために、この島に移住してきたのだから。
◇最初は、銃で行きます
さて、今日の午前中にイノシシが2頭かかったと連絡があって、夫と共に向かうことにしたのだった。どんな状況になるか分からなかったが、一応長靴、汚れてもいい防寒ズボンにホッカイロ2枚使い。リュックとカメラバック背負って、ちょっとしたミリタリールック。
イノシシの止めさしは、だいたい銃。バットで撲殺とか首絞めは危険すぎ(肉弾戦になったら確実にこっちがやられる)。最近では、銃痕などで肉の傷む心配のない電気ショックが人気だ。今回は、銃と電気ショックの両方が見られるお得なコースとあって胸が高鳴った。銃での止めさしは夫が受け持つことに。動物に当てるのは初めてのデビュー戦だ。
今日はプロ猟師ヒデさんとのタッグだ。最近新調されたヒデさんの軽トラは、なぜかひと昔前の携帯電話みたいなシルバーピンク。お洒落を狙ったのか、たまたま安かったのか。そんな謎をよそに、みかん畑が広がる道を奥へ奥へと進んでいく。
途中で畑の持ち主の農家さんと落ち合い、茂みの中へ。舗装された道路から、30メートルも離れてない場所に――いた!
「括りわな」に足を捉えられて、身動きがとれないイノシシ。子どもかな?ちょっと小さめ。こちらの姿を認めるやいなや、逃げようと激しく暴れる。こういう場合は、離れた場所から止めさしのできる銃の出番だ。
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