【小説】 僕の「平凡ないつもの」日常
ある日、テロリストが学校を占拠した。
テロリストたちは、現在の政権に対する不満を声高に述べている。その批判の内容は冷静に考えれば一理無くもないが、テロリズムという手段で訴えている時点で自らの正当性を失っている。
いわゆる「語るに落ちる」ってやつだ。ちゃんと正当な手段で、参政権と選挙権を駆使してこの国を変えていけばよかったのに。
授業中にクラスに入ってきたテロリストたちにサブマシンガンを突きつけられながら、僕はそんなことを考えていた。僕は「やれやれ、また厄介なことになったな」と眉間にシワを寄せる。この非常事態に冷静さを保てているのは、今までに似たような修羅場をいくつもくぐり抜けてきた経験の賜物だろう。
僕がどんな修羅場をくぐり抜けてきたのかは……えーと、まだちょっと考えていないから、後回し。
ちなみに、なぜテロリストが武器としてサブマシンガンを利用している「設定」なのかというと、サブマシンガンは拳銃の弾を流用できるからだ。ガバメントやM92Fなどで使われる、45ACPや9mmなどの弾。拳銃の弾はライフルなどの専用の弾よりも比較的用意に手に入る、たぶん……ネット記事で読んだ「サブマシンガン特集!!」にそう書いてあった。
さて、ここから僕が活躍する場面だ。テロリストの一人がクラスメイトの中から、神崎さんを人質にする。そう、神崎さんは厚生省の大臣の娘なのだ。親の教育方針で、エリート御用達の私立中学ではなくごく普通の公立中学に通っている。
神崎さんは大人しくしている。彼女は、ここで悲鳴を挙げたり嫌がったりしたところで物事が解決しないことを理解しているのだろう。聡明な女性だと思う。しかし、目の奥には隠しきれない恐怖の色が見て取れる。今、助けてあげるからね、神崎さん。
テロリストは神崎さんの頭に銃口を当てつつ、クラスメイトに「おい、下手なことすんなよ!!!」と威嚇している。ハッ、下手なことなんてしないさ。僕はもっと「上手に」やり遂げる。
新たなテロリストが一人、焦った様子でクラスに入ってくる。そして、他のテロリストたちに小声で耳打ちしている。情報を聞かされたテロリストたちは、思わず驚愕の表情を浮かべた。口元を隠しているから普通は分からないかもしれないが、僕のスキルならば瞳の動きを見るだけで感情を読み取れる。
……ふん、遅かったじゃないか。やっと僕の「仲間たち」が動き出したようだ。
これなら、あと一時間もかからずにこの騒動は収束するだろう。全くもって忌々しいことに「仲間たち」はそれだけの実力を持っている。有象無象のテロリストを鎮圧することなど、造作もない。
まぁそれにしたって、一時間ずっと神崎さんを恐怖に晒しておくのも忍びない。僕はテロリストが「仲間たち」に対抗すべく色々と指示を出している隙を付いて――。
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「次、飯山。ここの英文を訳してくれ」
「は、はいっ!!!」
びっくりした。僕は慌てて教科書をめくり英訳を答えるが、先生に「違う、そこじゃない……ちゃんと授業聞いとけよー」と諌められる。
ああ、恥をかいた……恥ずかしさに顔が赤くなる。生徒に英訳を答えさせることに何の意味があるんだ、非効率的だ。授業では文法とか知識だけを教えてくれ、全く……。
ふと、隣の席の神崎さん(実家は八百屋)と目が合う。
神崎さんは、僕を見てクスクスと可憐に笑った。
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