マガジンのカバー画像

アメジストの魚。

20
アメジストの魚のまとめです。 宜しければプロローグからどうぞ。
運営しているクリエイター

#朝

アメジストの魚。6-2

アメジストの魚。6-2

―恋は盲目。―
茅尋は私が思っているよりもあっさりとその言葉を肯定した。自分から言った言葉なのに、肯定されたことに対して居場所のない不快感が熱を帯びる。

「ねぇ、茅尋。」

駄目、君だけは。
もう狡い私を捉えてしまったんだから、君だけはちゃんと私を見て。視て。お願い。

「一緒に、」
「嫌だよ。」
茅尋が言葉を遮る。
寄せては返す波の音が僅かな沈黙を作った。

「…まだ何も言ってないじゃん。」

もっとみる
アメジストの魚1-2

アメジストの魚1-2

「ただいま。」

玄関扉を開けると、静けさの際立つ1DKの部屋が僕を出迎えた。一人暮らしの部屋からは勿論返答などない。

靴と靴下を脱いで風呂場に向かう。歩いている間は気にならなかったベタベタと張り付く感触が鬱陶しくて脱ぎ捨てた衣類は洗濯カゴから外れて床へ落ちた。

(そろそろ髪、切らないと…。)
濡れた前髪は目が隠れてしまう程伸びてしまって、お世辞にもお洒落とは言えない。

お湯を張りたい気持ち

もっとみる