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火の国の城【読書のきろく】

「火の国」と言えば、熊本。
その城ということは、熊本城。

・・・だよね?
と思いながら、棚から取り出してみました。でも、表紙に城らしきものは描かれておらず、裏表紙のあらすじを読むと忍者が登場するようです。
熊本城と言えは、加藤清正。熊本人にとって、故郷を代表する有名人のひとり。僕も好きな武将です。でも、「加藤清正と忍者」と言われても、なんかピンときません。下巻の裏表紙には、かろうじて加藤清正の名前が確認できるけど、どうも主人公ではなさそう。

不思議な感覚のまま、せっかくの出会いだと思ってレジに連れて行きました。誕生日のことでした。

この選択に、ありがとうを言いたい!
そう思った小説です。

舞台は、関ヶ原の戦いから豊臣家が滅亡するまでの、戦国時代から江戸時代への移行期間。有力武将たちが日々争う時代が表面上は終わって、安定したことになっている。けれど、心の内側では、誰もがお互いに腹の内を探り合っていて、征夷大将軍として天下人になった徳川家康と、豊臣秀頼・淀の方とが、精神的に対立していた緊張感のある時期です。徳川方と豊臣方の緊張の糸は張りつめたまま。落ち着かない日々が続いています。

その時代の影を生きた忍者、丹波大介が主人公。古い時代を知り、人情に厚い、人の心を持った忍びです。心の筋が通っていて、人を惹きつける魅力があり、老忍者の知恵を借りながら苦境を乗り越えていく様や、愛する人に夢中になるあまりに隙が生まれてしまう姿に、読み手も引き込まれていきます。
そして、丹波大介が仕えた人物として登場するのが、加藤清正。武力だけでなく、知性や政治力に長けていて、周りの誰もが弱腰になって手を付けられない徳川家康と豊臣方の間に立ち、両家の和解を取り持つことができた唯一の人物として描かれています。

歴史上の人物は、誰もが物語の主人公になりえる器で、誰の目からどんな感情を持って見るかで印象は大きく変わります。今回は、加藤清正以外に、真田父子も重要な人物として登場していて、いずれも個人的に好きな武将たち。真田幸村・真田十勇士には、小学生時代に夢中になっていました。

そんなひいきの人たちが、好意的に描かれていて、それだけでも満足です。好きなアイドルが活躍するドラマや舞台を、楽しみに観る感覚でしょうか。加藤清正に対しては、強くてカッコい武将というイメージに加えて、時代の超重要人物で、「あと5年生きていたら、江戸時代は存在しなかったかもしれない」というほどの影響力を持っていたことが、さらなる魅力として心に刻まれました。

忍者の巧妙な技のかけあいの緊迫感、綿密に張りめぐらされた影の計画の巧妙さ、力と技を極めた忍者同士の戦いの迫力、そして、登場人物の魅力とつながりのおもしろさ。
味わいたっぷりの小説でした。

読書のきろく 2020年68・69冊目
「火の国の城」上・下
#池波正太郎
#文春文庫

#読書の秋2020 #読書のきろく2020

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