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作文コンクール入選作のテーマ偏りすぎ問題について

「賞を取ってる作文のほとんどが、病気・障害・被災をテーマにしてない?」

それは仕事の一環で、作文コンクールの入選作品をいくつか読んでいたときのことだ。

みんな文章がうまいなぁ。すげえなぁ。この子たちはどんな本を読んできたんだろうなぁ。……とひたすら感心しながらも、あまりのテーマの偏りに「あうううーん……」と謎のうなり声を上げてしまったほどだ。

私がざっと読んだ20ほどの入選作品では、「家族ががんになった」「きょうだいが障害者」「被災して気づいたこと」といったテーマのものが多かった。

これは偶然なのか。それとも、このコンクール特有の傾向なのか。はたまた日本の作文コンクール全体における大きな傾向なのか。

そこで、ちょっとだけ調べてみた。国内でもっとも応募数が多い「全国小・中学校作文コンクール」。その最高賞である「文部科学大臣賞」(毎年3作品)を受賞した作品は、どんなテーマで書かれているのだろう。

【2015年】
○父親が逮捕された
○農業体験
○祖母の病気(若年性アルツハイマー)

【2016年】
○父親の身体障害
○熊本地震
○母親の病気(がん)

【2017年】
○東日本大震災(宮沢賢治)
○留学生
○母子健康手帳

【2018年】
○ワンオペ育児
○祖父の病気(認知症)と介護
○祖母の病気(がん)

【2019年】
○海外の平和教育
○妹の発達障害
○学校でからかわれたこと

直近の5年でこんな感じ。やはり病気・障害・被災のテーマが多くを占めている。それ以外でも、「父親の逮捕」や「学校でからかわれたこと」といった、どちらかというと暗く重めのテーマが多い。

暗めで重めのテーマというのは文章にしやすい。出来事のあとの結果や経過にはポジティブな内容が含まれることが多いので、そこをゴールにすれば、文章を構成しやすいからだ。たとえばこんな感じ。

 つらいことが起こった
  ↓
 私は落ち込んだ
  ↓
 そんなとき、誰かからアドバイスをもらった
  ↓
 つらいことにも良い面があると気づけた

見事な起承転結。作文構成のお手本だ。みなさん、作文を書くときには参考にしてください。

しかも暗く重めなテーマは、文章にしたくなる性質を持っている。明るく軽い出来事よりも心に深く刻まれるので、「こんなことがあったんだよ!」と伝えたくなるというか。

しかし、ここまで入選作品のテーマに偏りがあると、「暗く重い経験をしないと、よい作文が書けない」ってことにもなりかねないんじゃないかなぁ。それとも、すでになってるのかな? テーマ勝負の作文合戦だよね、それじゃあ。

壮大で、誰の心をも打つテーマが入選しやすいのは仕方ないとしても、それだけが「よい作文」の基準になっているとしたら、ちょっと悲しい。日常のありふれたことをいろんな見方をして、それを文章にすることのほうが、書くほうも読むほうも楽しいと思うんだけどなぁ。

それに、本当に文章のうまさや面白さを競うのであれば、テーマを自由にするよりも、課題テーマを設けたほうがいいよね。しかもそのテーマは、「昨日の晩ごはん」とか「横断歩道の渡り方」といった、誰でも経験していることだといいなぁ。

私は読みたい。「昨日の晩ごはん」をテーマにした作文を。「昨日の晩ごはんのさんまの塩焼きが怖かった。こっちを見ているから」とか「生焼けのハンバーグをレンジでチンしたら、硬くなりすぎて石を食べているみたいだった」とか「夕食はコンビニ弁当だった。お母さんの料理よりおいしい」とか。

無理やり起承転結を作ったり、「深イイ話」にしなくてもいいので、自由に書いてほしい。絶対に面白いはずだ。

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