三浦 由子

フリー編集者・ライター

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『サカナとヤクザ』と私と根室

鈴木智彦さんの『サカナとヤクザ』を読み返している。これで4回目だろうか。 この本に書かれているネタは、北海道の沿岸地域出身の私としては身近なものであり、あまり足を突っ込んではいけない話だったりする。 しかし、どうしても読みたくなるときがある。読めば読むほど、根室でのことを思い出すからかもしれない。 私の祖父は呉服商で、店舗を持つ前には行商で稼いでいた。この祖父は金儲けが大好きな曲者で、10代の頃にインドネシアに密入国しようとして捕まったり、株のヤバい取引に手を出したり…

    • 歳ですが、何か?

       本日12月30日。大晦日イヴ。私の誕生日です。  おめでとう私。ありがとう私。  「おばさん」という自称が自虐でも謙遜でもなく、単なる事実といえる年齢になって早数年。そんなおばさんが、今年から新しいことにチャレンジしています。  おかげで、「あなたの年齢では無理」「年齢を考えろ」みたいなことを言われることが増えまして、さらには悔しい経験をすることも増えまして、「やっぱりこの歳になったら、やっちゃダメなことなのかなー」と自信がフニャフニャになったりもしています。  そん

      • 心の中の辞書に訊け

        「○○でガンが治る!」とか「医者に殺されるな!」とか。トンデモ医療本がなぜ存在するのか。理由はただひとつ、「簡単に作れるうえに売れるから」。 あるツイートによると、ワクチン絡みのトンデモ医療本が、アマゾンの書籍総合ランキングの1位になっていたようだ。 やっぱり売れるんだなぁ。人の不安に当て込むのは、商売の鉄則とも言えるからね。不安商法。 出版社は慈善団体でもなければ、非営利団体でもない。本が売れなくちゃ商売にならない。わかるよ、わかる。しかし、倫理や人の尊厳、人命をない

        • この世の果ての魔女の声

          根室での集金を終えて、母とともに汽車とバスで北上した。たどり着いたのは野付半島だった。 最近では「『この世の果て』みたい」と人気の観光地らしい。当時の私にとっては、本気で本当の「この世の果て」だった。インスタ映えからは500億光年離れた、別の惑星。 とにかく色がない。空も地面も草も木も生気がなく、ミイラみたいだった。そのくせ、目の前のある海は異様に黒い。波も黒い。海全体が巨大な生き物みたいに動く。その背中のあたりに、ぼんやりと島が見える。日本とソ連が混ざり合った島だ。

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        『サカナとヤクザ』と私と根室

          夜明け前のヨミウリガール

          きっかけは「音楽メディアの技術革新」だった。 大げさだ。でも、あえて大げさに言いたい。レコードに取って代わるように現れたCD。そのプレーヤーを、当時の私は持っていなかった。 中学2年生だった私は、あるバンドの大ファンだった。そのバンドの新譜がCDのみで発売されるという知らせを聞き、「技術革新憎し!」の感情を募らせる羽目になった。 「レコードプレーヤーしか持っていない人はどうするんだ!」 大黒柱だった父が亡くなっていた我が家は、貧乏ではないものの、余計なものは簡単に買え

          夜明け前のヨミウリガール

          昆布と潮風に巻かれて

          ごめん。お手数をかけちゃいます。 何の手数かといえば、私のnoteの記事を2つ読んでいただくことです。 今回書くことは、これまでnoteに書いてきた、「根室での地獄巡り」の話とつながっていますので、よろしければ下の記事を先にお読みください。 『サカナとヤクザ』と私と根室 涙は雪で溶かすのが吉 では、今回の話を始めます。 父が亡くなり、「父の商売の売掛金の回収」という名目で、11歳の私が母と根室を歩き回っていたときのことだ。 根室には1週間ほど滞在する予定だった。正

          昆布と潮風に巻かれて

          涙は雪で溶かすのが吉

          「君は海千山千だからなぁ」 むかし付き合っていた年上の男にこう言われて、落ち込んだことがある。 落ち込むのは、自覚があるからだ。海千山千レディとしての。 以前書いたnote(『サカナとヤクザ』の感想文)のようなことを経験しているから、そう言われるんだろうな、とは思った。 さらにその男からは、「いろんな経験をしているせいか、君には年相応の若々しさがない」とまで言われた。たぶんそのとおりなんだろうけど、ムカついたのですぐに別れてしまった。 だから、母との根室での地獄巡り

          涙は雪で溶かすのが吉

          相手を知ってこその公募推薦①<ADHDの息子の大学受験日記>

          9月3日 「二学期」が秋の季語だと知ったのは、俳句の作り方の本を書いたときだった。 8月下旬から始まった今年の二学期だって、変わらずに秋の季語だ。だけど、残暑というか、夏の延長戦みたいな暑さが続いていては、秋もへったくれもない。 そんな中で、息子は通学と受験勉強に明け暮れる二学期をスタートさせた。 少しでも勉強時間を確保するために、学校に早めに行くと言い出した。そのため、部活の朝練があったころと変わらない時間に家を出る。6時20分。私は4時50分起き。つらい。 二学期

          相手を知ってこその公募推薦①<ADHDの息子の大学受験日記>

          覚悟を決めた三者面談<ADHDの息子の大学受験日記>

          8月20日受験生の夏の一大イベントといえば、三者面談だ。俺とお前と大五郎的に、生徒と保護者と先生で、今後の進路を決めるやつです。かのナポレオンも、「余の辞書に不可能という文字はないが、三者面談という文字はある」と言っていたほど重要なものです。 息子の三者面談は8月20日。この夏、東京がいちばん暑かった日だった。34.8℃、快晴。外に出るだけでもひと苦労なのに、学校で重くつらい話をしなきゃないなんて、私は前世でどんな悪いことしたというのか。親でも殺したか。自分の子どもを煮て食

          覚悟を決めた三者面談<ADHDの息子の大学受験日記>

          肉体派受験生におすすめの『百式英単語』<ADHDの息子の大学受験日記>

          8月11日夏休み初日。いま私の手元には、「進路の手引き」という冊子がある。これは年度初めに息子の通う高校から毎年配布されるもので、大学受験の説明や前年度の受験結果などが詳細に書かれている。 これがなかなか面白く、私の愛読書になっている。各教育産業企業のコンプライアンスが手を届かせたくても届かない場所からの発信であるため、わりと受験生の本音が書かれていて、「どういう勉強をした子が志望校に受かっているのか」が明け透けにわかってしまう。 今回の「進路の手引き」には、有名私立のW

          肉体派受験生におすすめの『百式英単語』<ADHDの息子の大学受験日記>

          これは戦記である<ADHDの息子の大学受験日記>

          8月8日最初に言っておくが、これから書くことは「戦い」の話だ。 簡単にいえば、現在進行形の息子の受験勉強の話なのだけど、決して受験体験記ではない。戦記だ。『三国志』や『ゲド戦記』と同じだと考えていただきたい。 なので、ビリギャル的なサクセスストーリーでもなければ、「高3の1学期までカメムシの臭いばかり嗅いでいた俺が東大に合格した件について」みたいなラノベ的ストーリーでもない。 しかも、多くの人にはまったく役に立たない話だと思う。なにせ、ADHDで言語能力が生まれつき低い

          これは戦記である<ADHDの息子の大学受験日記>

          かつて私は「神」だった

          「神」とは、その名のとおり神様のことです。Godであり、アッラーであり、天照大神でもある神です。 しかし私が今回取り上げる「神」は、いわゆる同人や二次創作と呼ばれる世界における「神」のことです。簡単にいうと、あるジャンルにおいての人気の作家さんのことなのです。 もちろん、その作家さんが自称するわけではありません。人気の度合や作品のクオリティ、作品量などでトップをひた走るような存在を、まわりの人たちが「神」と呼び始めるのです。 先日、かつてあるジャンルで「神」だった人の苦

          かつて私は「神」だった

          それでも時間は過ぎる

          世の中はうまくできている。『あつ森』にいい感じに飽きてきたころに、緊急事態宣言が解除された。 私はもう、あののんびりとした島の住人でいる必要はないということなのかもしれない。だからといって、どこかほかの社会にがっつりと属しているわけでもないのだけど。 フリーライターって仕事自体も、フリーだし書き仕事だし、会社に縛られているわけでも、ノルマに追われているわけでもない。徹底して無所属で、とてもフワフワした存在だ。 この自粛期間中には、初対面の編集さん2人からお仕事をいただい

          それでも時間は過ぎる

          『37セカンズ』は母親の物語でもある

          『37セカンズ』、めちゃくちゃいい映画ですよ。現時点で、今年の邦画の暫定チャンピオンと言ってもいいんじゃないかなーと。 どんな映画かと簡単に言うと、脳性まひで半身不随の20代女性・ユマの冒険譚です。「障害者が主役? なんだか重そう」と思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。若い女性の愛と性と青春の物語です。ただそれだけの、すがすがしい物語です。 あと、この作品は全国の「母親」たちに観てほしい――そう思わずにはいられない映画でした。 (ここから先の感想では、

          『37セカンズ』は母親の物語でもある

          ノムさんは月見草じゃないよ

          私は野球が大好きなのです。 プロ野球のシーズンが始まると、ほぼ毎日野球を見てしまうし、メジャーリーグもついつい見てしまいます。そこに高校野球が加わると、一日の予定が「野球を見る」だけで埋まってしまうこともあります。 そんな私にとって、野村克也さん死去のニュースはかなりの衝撃でした。 もうかなりのお歳だし、いつかはお別れのときが来ると思っていたものの、それでも訃報を聞いてからずっと、今に至ってもしんみりしているほどショックです。 私がバッテリーの配球や、ピッチャーの継投

          ノムさんは月見草じゃないよ

          私は読書を薦めない

          「子どもに読書をさせましょう」 「子どもを本好きにするのは、親の役目です」 こんな言葉を聞くたびに、私は「す、すみません!!!!」と心の中で全力の土下座をしています。なぜなら、うちの息子は本をまったく読まないからです。 正確にいうと「読めない」のです。発達障害で生まれつき言語能力が低く、文字を目で追っていると「グワーッて頭が痛くなる(息子談)」らしいです。マジか。 「生まれつきの障害があるとはいえ、小さい頃から本に触れさせるべきです」 「読み聞かせをしていたら、障害の大

          私は読書を薦めない