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相手を知ってこその公募推薦①<ADHDの息子の大学受験日記>

9月3日

「二学期」が秋の季語だと知ったのは、俳句の作り方の本を書いたときだった。

8月下旬から始まった今年の二学期だって、変わらずに秋の季語だ。だけど、残暑というか、夏の延長戦みたいな暑さが続いていては、秋もへったくれもない。

そんな中で、息子は通学と受験勉強に明け暮れる二学期をスタートさせた。

少しでも勉強時間を確保するために、学校に早めに行くと言い出した。そのため、部活の朝練があったころと変わらない時間に家を出る。6時20分。私は4時50分起き。つらい。

二学期が2週間ほど過ぎて9月に入ると、学校側から推薦入試に関しての連絡が細々と来るようになった。

まずはここで、息子の受験の予定をおさらいしよう。

B大学(偏差値57)とC大学(偏差値57)の、併願OKな公募推薦を受験する(11月~12月)

①のどちらかに受かれば、それを滑り止めにして、2月に第一志望のA大学(偏差値62)の一般入試を受験する。

①のどちらにも受からなければ、2月にA大学にB大学、C大学の3校だけでなく、偏差値低めのD大学(偏差値45)の一般入試を受験する。

できれば①→②のルートをたどりたい。経済面とメンタル面、どちらを考えてもこのコースが最高だ。年内に滑り止めが決まれば、第一志望の受験にも集中できる。最高じゃないか。

さて、ここで出てきた公募推薦とは何か――本年度より「公募制学校推薦型選抜」なんて長ったらしい名前で呼ばれることになったけれど、要は自己推薦だ。自分で自分を推すタイプの推薦。「俺という推しが尊い」とアピールする推薦。選考では、面接や学力検査、小論文などか課されることが多い。

まぁ、そこらへんはがんばって対策するしかない。問題は「敵の多さ」だ。志望する学部学科の、昨年の公募推薦の倍率はこんな感じだ。

B大学:11倍
C大学:4倍


……11倍? どういうこと?????

これ、ジャニーズのライブや刀剣乱舞のステージのチケットの倍率じゃないの???? Twitterに「○○のチケット、当選しました!」とつぶやこうものなら、「落選した人の気持ちも考えてください!」とクソリプが来るやつじゃないの?????

この現実を見たとき、うっかり吐きそうになった。でも吐かなかった。私は長女だからね。

いや、長女だろうが長男だろうが、11倍はちょっとヤバいのではないか。原液から作るカルピスだったら、軽く濁った水にしかならないような倍率だ。ヤバい。飲みたくない。

「B大学の○○学部の公募推薦は、とても倍率が高くて、レベルも高い。当校の歴代の優秀な生徒たちも、ほぼ全員落ちている。それでも指定校推薦じゃなく、公募推薦にするかい?」

そうだ。三者面談で、担任がそう言っていたじゃないか。

徒歩1分のところにわざわざ車で30分かけて行くような、先生の遠回りな言葉。私なりに翻訳すれば、「お前は大して優秀じゃないんだから、公募はムリ! 落ちます! 素直に指定校推薦にしておけって!」である。

まぁ、私もほぼ同意見なので、そう言いたい先生の気持ちはわかる。わかったところで、11倍が急に「濃いカルピス」並みの倍率に変わるわけでもないけれど。

とにかく、11倍の難関をなんとか潜り抜けなくてはならない。薄いカルピスを飲み干さなくてはならない。

当の息子も、やっとのことで事の深刻さがわかってきたようで、いつもは「うん」「わかった」ぐらいしか言わないのに、「やべぇ」「マジか」「すげー」などと言うようになってきた。

まずは準備だ。孫子の兵法にも書いてあるじゃないか。「勝敗は戦いの前に決まっている」と。つまり何事も準備が大切なのだ。

公募推薦の準備は、高校側への申請から始まる。「公募推薦を受けたいので、学校からの推薦状を書いてください」とお願いしなくてはならないのだ。

そのためには、いわゆる申込用紙的なものと、もうひとつの用紙に記入しなければならない。それは「志望理由書」だ。その大学にどうして入りたいのかを、800字ぐらいで書く。

高校からのアドバイスとしては、「大学の学部のアドミッションポリシーをよく読んで、実際の面接で使えるレベルの志望動機を書くこと」だった。

この「アドミッションポリシー」というのは、大学側が「うちはこういう学生を求めています」と宣言している文章みたいなものだ。

つまり、その文章に合った志望動機を書けばいいんだな? よーし、わかった。母ちゃんはこれでもライターなんだぜ? いい文章を書くアドバイスをしちゃうぜ!……と意気込み、まずはB大学のサイトにあるアドミッションポリシーを読んでみた。

「○○は現在の問題を解決しながら、最先端の技術と知識、思考、デザインが融合する分野です。また、人と人とのコミュニケーションを基礎として、今後の新しい○○のあり方を生み出し、さらなる高みを目指すクリエイティブで好奇心あふれる学生を求めます」(※実際の文章に手を加えています)

読んだ瞬間、「これ、なに言ってんの?」と言う息子、あいまい過ぎる表現の羅列に戸惑う私、午後の日差し、まぶしい緑、鳥のさえずり、この美しい世界……と、ポエムを書いている場合ではないが、ポエムりたくなる。

なにこれ。どんな学生を求めてるかが、まったくわからん。私がこんな文章を書いたら、編集者に大量の赤字を入れられるどころか、血染めの文字で「死ね」と書かれるはずだ。

というか、これをもとにして志望理由を書いたら、落ちるのは当たり前じゃない? だって、この大学がどんなところなのかさえ、一切伝わってこないんだもの。

息子と唸りながら、考えること数分。ふと思い当たったことがあった。

「これって、就職のエントリーシートに書く志望動機と同じじゃね?」

私はこう見えて、就職活動に関する書籍を4冊ほど書いている。「就活のプロ」といわれている先生に、何度もお話しを伺ったこともある。

だったら、私の知ってるノウハウを息子に伝えるしかない。志望動機と自己PRのOK例とNG例を書きまくった私の腕を舐めないほうがいい――。

すでにアドミッションポリシーではなく、APEXの実況配信を見始めていた息子に、私はB大学のパンフレットを突きつけた。

「まずは、志望する学部学科のページをすみからすみまで読め! 話はそれからだ!」

(続きます)

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