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読書感想文

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読んだ本や文章の感想を書いたものです。
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#科学

『まだ見ぬ科学のための科学技術コミュニケーション』(奥本素子・種村剛 著 共同文化社 2022)読書感想文

もはや私たちは科学技術なしでは生きられない。 とはいえ、科学技術との関わり方は人それぞれ違う。科学技術に対する感情や意見も人それぞれ違う。 例えば、「原子力発電は使わない方が良い?使った方が良い?」「新型コロナのワクチンは打った方が良い?打たない方が良い?」という質問への応答は人それぞれだろう。また、「科学技術って信頼できる?」「科学技術政策はどう進めたら良さそう?」といった質問への応答も人それぞれだろう。 「科学技術コミュニケーション」とは科学技術において、 取り組

『なぜ科学者は平気でウソをつくのか』(小谷太郎 著 フォレスト出版 2021)読書感想文

今のところ、研究の世界は捏造などの研究不正(ウソ)と縁を切れていない。世間を騒がすような研究不正も登場する。そのような研究不正は元々、研究業界やマスコミを歓喜させる大発見だった。 本書は、常温核融合やSTAP細胞などの科学史に刻まれた研究不正について書かれた新書である。 研究不正は一時、大発見として取り沙汰されてしまう。しかしながら、後々、論文内の不可解な記述や追試の失敗などにより、各所から疑念が浮かび上がり、ウソであることが暴かれてしまう。 本書では、大発見として発表

『みな、やっとの思いで坂をのぼる』(永野三智 著 ころから株式会社 2018)読書感想文

今回は『みな、やっとの思いで坂をのぼる』という本を紹介したい。この本には副題がある。「水俣病患者相談のいま」だ。そう、この本には、水俣病の“今”が描かれている。 著者である永野三智氏は水俣で生まれ育ったが、水俣病のある生活から目を背けるために別の土地へ逃げ移った過去を持つ。水俣病患者の知人に心無い言葉をかけてしまった経験も持つ。しかし、恩師が関わる水俣病訴訟をきっかけに、改めて、水俣病と向き合い、現在は財団法人 相思社の水俣病相談窓口を担当されている。その法人は坂の上にある

『原子力の哲学』(戸谷洋志 著 集英社 2020)読書感想文

以前、戸谷洋志氏の著書『Jポップで考える哲学 自分を問い直すための15曲』を読んだことがあった。彼が哲学者であり、原子力も一つの研究対象としていることも知っていた。そんな戸谷氏が『原子力の哲学』という新書を上梓したと知ったので、読んでみた。 本書では、ハイデガー、ヤスパース、アンダース、アーレント、ヨナス、デリタ、デュピュイ、という7人の哲学者の原子力に対する思想が紹介されている。ここで言う、「原子力」には核兵器だけでなく、原子力発電も含まれている。 我々のような哲学の非

『探求する精神』(大栗博司 著 幻冬舎 2021)読書感想文

大栗博司氏の著書は、『強い力と弱い力』や『大栗先生の超弦理論入門』など、これまでにも何冊か読んだことがあった。その度にいつも「なるほどなぁ」と学びながら、「学界をリードする研究者であり、かつ、こんな文章を書けるなんて、スーパーマンだな」などと思っていた。そんな大栗氏の新刊ということで、本書を手に取った。 本書は、大栗氏が半生を振り返りながら、研究や科学、大学や教育などについて自身の考えを記したものである。なので本書は大栗氏の回顧録のようなものでもある。バリバリ現役の彼がなぜ

『物理学者のすごい思考法』(橋本幸士 著 集英社 2021)読書感想文

本書は理論物理学者である橋本幸士氏によるエッセイ集である。彼の日常、そして、その日常を彼がどんな視点で見ているのかが記されている。それぞれのエッセイからは、彼が理論物理学者の眼で世界をどう捉えているのかが垣間見られる。 本書に描かれている橋本氏の日常には、大きく二つあると感じた。 まず一つは、家庭での日常。つまりは、夫や父親としての橋本氏の日常。もう一つは研究者コミュニティでの日常。つまりは、物理学者としての橋本氏の日常だ。 家庭での日常に関わる話題では、ギョーザの皮が

『「科学的思考」のレッスン 学校では教えてくれないサイエンス』(戸田山和久 著 NHK出版 2011)読書感想文

タイトルにもある「科学的思考」つまり「科学的に考えること」は「科学リテラシー」とも言い換えられるものだ。科学と社会が切り離せない現代においては、誰もが身に付けておいた方が良いものとして、ところどころで取り上げられる。 この本は東日本大震災の数か月後に出版された本だ。当時は科学(者)からの情報発信が問題視され、科学への信頼を大きく損ねた時期でもある。同時に、科学(者)からの情報発信を社会(市民)はどう受け取るのかも問題になった時期でもある。 最近は新型コロナウイルス感染症の

『我々はなぜ我々だけなのか:アジアから消えた多様な「人類」たち』(川端裕人 著・海部陽介 監修 講談社 2017)読書感想文

「我々」とはホモ・サピエンスのこと。現存するホモ属は“我々だけ”。ではなぜ、“我々だけ”なのか。本書では、この問いに迫る人類学が描く「景色」を体感することができる。 舞台はアジアに点在する発掘現場。そこで発掘される謎の化石。監修者である海部氏率いる研究グループは、最先端の分析機器・手法を駆使し、謎に包まれた化石たちを分析している。 研究成果から描かれる人類史の「景色」とは。“我々だけ”でない時代はあったのか。ワクワク・ドキドキする研究成果を著者である川端氏の独特の記述と共

『ルポ 人は科学が苦手 アメリカ「科学不信」の現場から』(三井誠 著 光文社 2019)読書感想文

コロナウイルス感染症の感染者がずいぶんと減ってきている。行動制限も緩和の方向に動いている。振り返えれば、コロナウイルス感染症に関する科学者側からの発信に不信感が募った時期もあった。科学技術が発展し、社会に浸透している現代においても、科学は不信がられる存在であり続けている。 この本は、アメリカにおける科学不信の現場について描かれているルポルタージュだ。 アメリカではキリスト教信仰の関係で、ダーウィンの進化論を教えない学校もあるそうだ。科学の視点で見れば常識だとされることを常