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Web3が日本のインフラを救う!? 加藤崇と考える、社会課題とゲームの役割

ぼくが開発にかかわる『TEKKON』を運営している、Whole Earth Foundation(ホール・アース・ファウンデーション)の創業者・加藤崇さんと、Web3ゲームや現状の課題について話をしました。人型ロボットや人工知能の分野でビジネスを展開してきた加藤さんが、なぜ異業種のぼくと組んでWeb3ゲームに挑戦したのか? 『TEKKON』に込めた加藤さんとぼくの想いも詳らかにします。

Web3が黎明期のYouTube市場と似た変化に

加藤崇(以下、加藤):
岡本さんには、『TEKKON』の前身となるアプリゲーム『鉄とコンクリートの守り人』の企画段階から、たくさんアドバイスをもらってきました。そのおかげで『TEKKON』は、ユーザーが遊びながら社会課題を解決するという点で、理想に近い位置情報ゲームになったのではと自負しています。

加藤 崇(かとう・たかし) 早稲田大学 理工学部 応用物理学科卒業。東京三菱銀行等を経て、ヒト型ロボットベンチャーSCHAFTの共同創業者。2013年に同社を米国Googleに売却し、世界から注目される。2015年には、人工知能で水道配管の更新投資を最適化するソフトウェア開発会社(現在のFracta, Inc.)を米国シリコンバレーで創業。2020年12月には、Whole Earth Foundationを創設し、マンホールはじめインフラの老朽化をユーザーの力で解決するゲーム『TEKKON』を運営する。

岡本吉起(以下、岡本):
Web3のゲームというと、「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」の「稼げる」にばかり注目が集まっていました。しかし加藤さんのように、「遊び」のほうの重要性にも注目できる人が、ようやく現れてくれました。これからはエンタメ性やグラフィックといった、ゲームとしての純粋な品質も問われてくるでしょうね。

加藤:
いわゆる本物のゲームクリエイターさんたちも、この市場に参入し始めましたからね。無名の素人ばかりで大きくなったYouTube市場に、テレビタレントさんたちが次々と参入した結果、昔からやっているYoutuberの収入は下がったといった話がありました。Web3のゲームにおいても、同様の変化が起きていくでしょうね。

Web3で叶えられる「おもしろいゲーム」と2つの課題

岡本:
その変化の中で、Web3のゲームが解決しなければならない課題はまだ2つあると思っています。1つめは、「最初にやって、早く抜けた人ほど有利」というルールを誰も覆せていないこと。2つめは、「安定して儲けられない」こと。儲けの部分に対し、ゲームの影響力がつながってないんですよ。結局、ビットコインやイーサリアムなど暗号資産の相場次第になってしまう。

岡本:
つくってる側としては、おもしろいゲームができました、ゲームがおもしろいから遊びました、遊んでるうちにちょっとずつ儲かりました、みたいな流れになってほしいわけですよ。でも、実際は早く売り抜けた者勝ちですし、暗号資産の相場に左右されてしまう。ゲームをおもしろくしたい、と取り組んでくれる人たちは、ここの解をまだ見出せていません。

加藤:
本質的な問題ですよね。そもそも私たちが『TEKKON』で目指しているのは、マンホールや電柱の経年劣化を見つけ出すことで、ゲームを通してのインフラ管理を何十年と持続させることです。ゲーム自体も、「長く続けてもらう」ことが最大の目的になります。

岡本:
アプリゲームが主役になって以降、1つのゲームが長くプレイされる傾向が進んでいます。モンストで9年半、パズドラで11年。ユーザーは自身の課金が無駄にならず、ずーっと同じゲームテクニックが通じているのは意味があるし、そこに仮想通貨やNFTが融合することは、ものすごく相性がいい。「長く」が大事になるので。

加藤:
その点に関して私は、『TEKKON』内におけるポイント獲得バブルのスピードを、かなり抑制しています。ユーザーが街を歩き、日常の中でマンホールの写真をアップしないとポイントが貯まらない設計をとることで、加速をわざとブロックしてるんです。

興奮を抑える「減速機」をわざと入れてある

加藤:
やればやるほどポイントをもらえるのではなく、毎日続けることに意味がある設計ですね。その結果「毎日やっているうちに、写真を撮ること自体が楽しくなった」「趣味や習慣になったことで、200個300個撮る」といった、ポイント目的ではなく、楽しいからやっているというユーザーを増やしていく取り組みです。

岡本:
長く遊んでもらうために、減速機をわざと入れてるんですよね。ゲームでは非常に大切な部分で、ぼくも『モンスターストライク(モンスト)』でのモンスターの強さの上昇率(インフレ率)をいくらで抑えるかは、とても慎重にやってました。

その一方で、たとえばポイントの年間の値上がり率を10%と決めたら、そうなるように仕組みを入れていく必要があります。なぜ10%かとは、インデックスファンドに投資した場合を下回るようなら、そっちのほうがいいじゃん、となってしまうから。いくら減速機とはいえ、10%程度は必要なんですよ。

逆に、そこさえちゃんと確保できてさえいれば、ただお金を預けているのではなく、「ただ遊んでいることで10%儲かる」が実現されていることになる。ゲームを遊んでいるだけで、10%のおまけがついてくる。そのためには、そのゲームを楽しんでいるか、飽きずに苦痛を感じずプレイできることが必要になります。

加藤:
本当は加速を持たせることによって、バーンと儲かる仕組みのほうがユーザーは集まります。ドーパミンがドバーッとでるようなゲーム。これまでのNFTやクリプトゲームが、スマホゲームと張り合ってこれた要素でした。

でも、私はそこに減速機を入れて抑制してしまっていることで、ここにエンタメ性を入れないとどうにもなりません。構造としては安定したものになっても、長い間興奮して遊べるユーザーを増やせない、という脆弱性があった。そこで、岡本さんの出番だったんです。

ポイントとゲーム性を分けて考える

岡本:
ユーザーが飽きないよう、刺激を強くしていくことがゲーム運営ではどうしても必要ですからね。そのためにはユーザーに、ポイントとゲーム性を分けて考えてもらう必要があります。撮れば撮るだけ何かをもらえるんだけど、ポイントやお金はなく、ゲームを楽しめるようになる何かがあればいいんです。

岡本:
たとえば、「マンホールの上にはモンスターがいて、倒したら別のモンスターが新しく出現するかもしれない」とか。マンホールを撮って獲得できるポイントは変わらないものの、次の日に同じマンホールを撮ったら「ゲーム上なにかがあるかもしれない」と期待できる仕掛けですね。

加藤:
岡本さんって、こういうゲームをおもしろくするアイデアが無限に出てくるのが、ほんとにすごいですよね。私たちがいまぶちあたってるエンタメ性の壁に対しても、「もっと別の楽しみ方があったほうがいいんじゃない?」と指摘してもらい、まさにそここそが欠けている部分なので……。

岡本さんの天才性を引き受ける、キャッチすることができれば、『TEKKON』はもっとおもしろくなる可能性を秘めていると思っています。

ブロックチェーンゲームの仕組みで「社会課題」を解く方法

岡本:
加藤さんは、ほかの人たちがブロックチェーンという「新しい技術」自体に期待してどんどん参入していたなかで、ちゃんと「大義名分」があったのが良かった。多くの人はやっぱり、「自分のお金儲け」が前面に出ちゃってるんですよ。

お金がほしい、お金がほしい、ばかり言ってて、世のため・人のために誰もやろうとしていない。でも、加藤さんには間違いなくそれがあった。だから、応援したくなりました。

加藤:
ありがとうございます! 私の場合、Web3が出てきたからWeb3を始めたわけではなく、そもそも解決したい社会課題があり、その効率の良い解決方法としてWeb3に興味を持った。そういう流れでしたからね。

岡本:
前はFRACTA(フラクタ)という会社で、米国の水道配管の事業をやってたんですよね。

加藤:
はい。水道配管はとても大事なインフラで、アメリカでは30年で130兆円ぐらいの管理予算が設定されています。平均で60〜80年ぐらい保つとされていますが、配管を覆う土の違いの影響から、100年持つ配管もあれば20年で破裂するものもあるんですね。

ただ、地中に埋まっていることもあり、どういう順番で水道配管を交換していけばいいか誰にもわかりませんでした。それを私が⼈⼯知能やアルゴリズムを用い、配管が錆びるスピードなどを割り出すことで解決していったんです。

その実績があって、マンホール、電信柱、鉄塔、線路なども調査してほしいと依頼されるようになりました。ただ、水道配管と違って、地上にあるものだから目視でいいじゃないですか。となると次は、「誰が見るの?」の問題がある。それが2017 年でした。折りしも米国ではクリプトバブルが起きていて、トークンの売買が非常に盛り上がっていた時期でした。

『TEKKON』は「人が集まる言いわけ」になる

岡本:
トークンを絡めたゲーミフィケーションで、「○○やったらトークンあげるよ」という仕組みを用いることで、自分たちではなく大勢の人に「見る」役割をやってもらおう、と考えたわけですよね。

加藤:
はい、インフラの写真のアップロードをユーザーがやってくれるゲームができれば、インフラを守る動きにつなげられるのでは、と。そういう気持ちで取り組み始めた企画をおもしろがり、投資までしてくれたのが岡本さんでした。とても感謝しています。

岡本:
まだまだ改良できると思っていますよ。たとえば、いまの『TEKKON』はどのマンホールを投稿しても同じポイントが一律でもらえる仕組みですが、本当に運営側が知りたいのは「交換時期にあるマンホール」。劣化したマンホールを見つけて投稿してくれたユーザーは、もらえるポイントも高くしたい。本来の意味で「ユーザーの手でインフラ管理」が叶うわけですからね。

大義名分があることで、製品をよりよくしていこうという試行錯誤は自然とチームに生まれます。加藤さんのインフラを守るという大義名分の実現のためには、もっと仕組みやエンタメ性を高めていきたいですね。

加藤:
いまも、トライ&エラーですね。ただ、「どこまでいっても『TEKKON』は、ゲートボールのようなもの」と社内では言い続けてもいるんです。テニスやゴルフはできる人は非常に限られてしまいますが、ゲートボールはいつでも誰でも楽しめるスポーツ。そして『TEKKON』はゲートボールと同じく、おじいちゃん・おばあちゃんでもできるゲーム。外を歩いて、マンホールの写真撮るだけですからね。

加藤:
むしろ、そういう性質を活かし、ある種の「人が集まる言いわけ」みたいになっていくのかなと。シニアの集まりや婚活イベントなど、人が集まる理由になれると考えています。昨年は東急不動産さんと渋谷区観光協会の協力のもと、渋谷で電柱写真の収集をする参加型のイベントを開催しました。まだまだ具現化できていない部分が多いですが、おそらく今年はそこが1つのテーマになってくるだろうと思っています。

ピカソと背中を預けられる人

加藤:
私ね、岡本さんは現代のピカソだと思っているんです。

岡本:
すごい、ほめ言葉! ピカソの、どのあたりですか?(笑)

加藤:
ご自宅に招いてもらって、岡本さんが考案したボードゲームを一緒にやったじゃないですか。将棋ぐらい複雑なルールでありながら、洗練されていて感動しました。どうすれば思いつけるのか、どこからアイデアが始まったのか、見当もつかない。

私の専攻は物理です。この分野で優秀な人は周りにいたものの、あくまでも教科書がある世界なんです。

ピカソは、デッサンの技術を磨いて磨いて、実際にものすごく巧くもあった。その積み重ねのなかで、デッサンの限界みたいな境地に到達する。そこでピカソは積み上げてきたものを壊して、キュビスムというまったく新しい概念を生み出しました。「新しいカテゴリ」をつくったわけです。岡本さんの生み出す発想やアイデア、ゲームにも、そういうジャンプがあるんです。自分の周囲にいる優秀な人間とは、筋が違う。一生懸命物理を勉強してきたからこそ余計に、その凄みを感じています。

岡本:
ぼくからみた加藤さんは、異業種ということもあって、とにかく陽キャで気持ちがいい人なんですよね。ゲームをつくっている人間は、いつもみんな眉間にしわを寄せてますから(笑)。

ゲームって外側は楽しいものですけど、内側はけっこう厳しいんです。明るくキャッキャなんて、一切してません。常に難しい顔をして、考えてます。だから、ぼくの周囲にはいないタイプなんですよね。そして加藤さんの場合、それでいて軽薄なところがなく、信頼できる。結局のところ、「背中を預けられる人」なんだと思います。

加藤:
それは大変うれしい評価ですね。

岡本:
ゲームをつくる側が前に攻めにいってる間、後ろで城を守ってもらうわけで、その城の門が開いてるか・閉じてるかで、ぼくらが攻められる距離がけっこう違ってくるんですよ。

門が閉じないと思えていれば存分に槍をふるえますが、閉じるかもという不安があると、後ろを気にしながらの戦いになってしまう。加藤さんは、たとえぼくらが全滅しそうになっても、1人でも仲間が戦地に残っているなら門を開けてくれる人なんじゃないかと。そういう人をぼくは、「背中を預けられる人」と言ってます。

加藤:
これからも、ピカソからたくさん刺激をいただくつもりです(笑)。


インフラ整備を助けトークンが貯まるゲーム『TEKKON』

編集協力/コルクラボギルド(文・ぐみ、編集・平山ゆりの)、バナーデザイン/山根恵美


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