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AI作曲の現状と未来。AI時代の作曲家に求められる事が何なのか?について書いてみました

AIを使用した作曲の実例が増えて来ました。
2019年は大きな進化が見られる年になるだろうと予想していましたが、その通りになった様に思います。
もちろんまだまだ黎明期であり、その真価はこれから問われることになるとは思いますが、今後につながる実践的な試みが多数スタートした年だったと思います。

9月、オーストリアで開催された科学とアートとテクノロジーの祭典アルスエレクトロニカ・フェスティバルではマーラーの未完成の曲の続きをAIを使用して作曲するという試みが行われました。


同じくアルスエレクトロニカ・フェスティバルでは、YAMAHAが伝説のピアニスト”グレン・グールド”の演奏をディープラーニングによって再現するプロジェクト『Dear Glenn』を発表しました。


手前味噌ですが、私が現在制作に関わっているAI音楽を使用したプロジェクトについても、近々情報公開可能となりますので、そちらも日本発(初?)のAI作曲の実例として皆様にお伝えできるはずです。


この様にAIを使用した作曲の試みは、近い未来の実現に向けその動きを活発化させており、2020年はさらに拡大、大きな進化が果たされる事も想像に難くありません。
そうなると、活用する、しないに関わらず、どの様にAIを捉えるべきか?付き合っていくべきか?否が応でも真剣に考えなければならない時期が来た、、、、と考えている作曲家の方も多いはずです。

1・AIは作曲家になり得るのか?

他の多くの仕事同様、作曲の仕事もAIに奪われる、という様な論調の記事や書籍を目にする事が少なからずあります。

この記事の中にこの様な一文があります

著作権法において、「著作物」は以下のように定義されている。
「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」

AIが、AIだけで行なっているのは実は作曲ではありません。
単に生成です。
生成音楽とは自動で音楽が作成される機能によって生み出される音楽です。
生成と作曲は明確に違うものです。
作曲とは

何かを音楽で表現したいという意図 
      ↓
音楽を作るための作業 
      ↓
判断し整理し音楽の意味、価値を生み出す

こういった一連の行為によって成されます。
生成は中間の段階の作業の部分、その方法の選択肢の一つに過ぎません。
自動で音楽が作成されますが、作曲となり得る、感情や思想、意図や判断というものを含まないのです。
「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」
という一文の通り、思想や感情、の部分こそが作曲においては重要であり、ゆえに価値を重んじられ、著作権として認められ保護されているわけです。
私が冒頭で“AIを使用した”作曲と意図的に書いたのもそのためです。
AI"が"作曲したのではなく、AI"を使用した"作曲、を意味しています。

作曲:人の思想・感情、作業、意図や判断を含む楽曲創作行為全般を指す
生成:作業の一手法。ここではAIによる音楽の書き出しを指す

作曲は言わば生成の上位概念です。
その音楽にある、作曲家の意図や思想・感情にこそリスナーは心動かされるはずです。

とは言え、作曲の中で作業は当然大きな役割を持ちます。
そしてAIによる音楽生成がなぜこれだけ騒がれるのか?
それは、これまで人間しかできなかった非常に高度な作曲作業に近い、あるいは同等以上のレベルの音楽の生成を、ついに人間以外が実現してしまう可能性があるからです。
これは本当に大きな出来事です。
作曲に与えるインパクトは絶大と言って間違いないでしょう。
お読みなっている方が作曲家の方で、もしその作曲において作業の部分を最も重んじているのだとすれば、その意義や価値を一変させてしまう可能性もあります。

2・AIによってなくなる作曲の仕事とは?

現実には、世の中には思想や感情や意図を必要としない音楽を作る作曲の仕事もたくさんあります。
いわゆるBGMなどです。
私は機能性音楽という風に呼称していますが、音楽そのものに意義は求めない、何かしらの明確な音楽外にある効用や目的のために使用される道具としての音楽です。

例えば
・心地よい空間を演出するための店舗BGM
・睡眠やヨガ、ランニングなど人の活動を補助または促進させるための音楽
・主役は別にあり、音楽は聞かれる必要はないが時間的な隙間を埋める効能

3つ目の代表的な例は、動画投稿の際に使用されるBGMなどです。
これについては今年大きなニュースがありました。

動画投稿サービスのTikTokが、投稿される動画のBGMにAIで自動生成した音楽を使用する事を目指し、AI音楽生成サービスのJukedeckを買収したのではないか?という報道です。

もしこれが計画通りにうまく実現されれば、AIによる機能性音楽活用の最初の大きな成功実例になるかもしれません。
今後の流れにも大きな影響を及ぼすと思われ、非常に注目しています。

さて、このTikTokの例でもそうですが、音楽そのものにあまり意図や意義を求めない、機能的な目的さえ果たせば良い、という様な音楽は、精度さえ高ければ、それで十分役目を果たします。
極論すれば(言い過ぎかもですが、、、)音楽としておかしくなければそれで良いのです。
それでもこれまではそのおかしくない音楽、つまり人が作る様な音楽を生成できる楽器や機械というのはありませんでした。
しかし、AIがついにそのレベルの音楽生成を実現しようとしています。
となると上記例に挙げた店舗BGMやその他の機能性音楽も、それを作る役目は人ではなくAIになる、そんな可能性も十分考えられます。
現在作曲の仕事の中でも、作業の部分を価値として提供している方々の仕事は、全てではないとしても、やはりある程度はAIに代替えされるかもしれません。

3・AIで変わる音楽の制作環境と新たに実現される事

作曲をする際の音楽制作環境もAIによって大きく変わっていく事が考えられます。
それによってやはり音楽制作の作業の部分がこれまでとは異なるもの、あるいは異なるレベルのものになる可能性があります。

すでにマスタリングやミキシングでAIを活用したプラグインは、プロの現場でも当たり前に使用される様になりました。
DAW(コンピューターの音楽制作ソフト)の進化も、今後AI関連の機能がその中心となる事が予想されます。

・音色選択(自動的に最新の最適な音色を選択)
・歌声合成(誰のどんな歌声でも自由に作れる)
・音色生成(アナログ音をキャプチャしそっくりに再現)

などなど、、、
これまで不可能だった色々な機能が次々とAIによって実現されていくはずです。
音楽制作における作業全般の役割を、AIが人とともに担う、むしろAIを活用しないと出来ない高度な処理や作業が増えていく、そんな時代になるのではないでしょうか?

4・AI時代の未来にAIを活用する作曲家に求められるものとは?

これまで書かせていただいた通り、作曲の中で作業の部分については、AIの役割が増え、これまでよりも人の役割は減っていく事が予想されます。
人の作業の重要度が減り、それによる差を簡単には生み出しづらくなる、付加価値を作る事が難しくなる、と言った方が的確でしょうか?
そうなると、どんな音楽を何の意図で生み出すか?思想や感情など、本来作曲たる価値と認められているものが、これまで以上にその価値を上げる事になるはずです。
BGMなどの機能性音楽作曲においても、全てをAIが代替えするのではなく、作業の部分だけが代替えされるのだと捉える事にしましょう。
その場合作業に変わり、新たに求められる能力として考えられるのは、AIによって生成された音楽の判断や意味づけ、管理能力などでしょうか?
音楽生成に詳しい作曲家、なども重用されるかもしれません。
音楽とAI両方の知識を併せ持つ人材が、新種のプロフェッショナル作曲家として、音楽制作の大きな役割を担う事も十分考えられます。

一方で、AIは、作曲家の創造の可能性を広げる、これまでの音楽制作にはなかった新しい制作手法を生み出す可能性も大いにあります。
すでに現実に考えられるもの、実践できるものとしては、独自モデル作成によってAIを意図的に制御し、生成される音楽を差別化できる様にする方法などです。
AIでは、通常学習させた音楽データに従い音楽を生成します。
ジャズを学習させればジャズ的な音楽が、ロックを学習させればロック系の音楽が生成されます。
それぞれの学習データによって作られたプログラムをモデルと呼び、モデルが各音楽を生成するわけです。
当然学習データの種類、学習方法、使用するモデル、生成パラメーターによって生成される音楽が違ってきます。
学習データを選ぶ意図やセンス、生成パラメーターやモデルの個性的な活用方法など、新たな創造性が問われ、活かす事のできる機会がAIによってもたらされるはずです。
複数のデータ掛け合わせによる未知の音楽ジャンルの創造、パラメーターの変異による新しいリズムパターンの創造、あるいは今想像する事ができない全く新しい音楽、、、、そんな音楽が最新テクノロジーであるAIを活用して生み出される事こそ、実は私が最も期待している事です。
そしてそれはあくまで人の創造力によって生み出されるはずだ!そう私は信じています。

AI時代の作曲家には
・思想 (その音楽にどんな思いを込めるのか?)
・意図 (その音楽をどう表現するのか?)
・意思 (その音楽をどれだけ伝えたいのか?)
・感情 (その音楽に心はあるか?)
・創造力 (その音楽は独創的か?)

そういった人間らしい部分が逆に求められます。
加えて
・AIを使いこなせる知識
があれば、その人間らしい部分を、これまで以上に音楽に反映させる事が容易な時代にもなるでしょう。
AIに使われるのではなく、AIを使う側になる事が重要です。
そしてそれはそんなに難しい事ではありません。
AIが何者なのか?ただ知れば良いのです。

一緒にAI作曲を学びませんか?

さて、実は現在私はAI作曲の手法をお伝えする音楽テクノロジーの学校を運営しています。

上述したAI時代のデジタル音楽作曲家に求められる、技術、知識、芸術論やビジネスでの活用までを、実際に実践した内容を基に惜しみなくお伝えしている未来の音楽アカデミーです。

そして今回非常に稀な事なのですが、その中からAI作曲についてのエッセンスとなる基礎的内容を、リアルにハンズオンで解説する講座を担当する事になりました。

11月21日〜12月19日 
毎週木曜日19:15〜20:45
全5回
この全5回でAI作曲の基礎をお伝えする講座です。
ゼロからでも基礎的なAI作曲を実践していただける様になります。
最終日は、浅田祐介さん、林ゆうきさんといったプロの作曲家の方々に、受講者がAI作曲した曲を審査してもらえるという、かなり貴重な豪華版の講座です。
日頃からAI作曲が気になっていた、という皆様、是非参加ご検討ください。
講座でお会いできる事を楽しみにしております。

AIは、1990年代後半のインターネット以来の、あるいはそれ以上のインパクトを人類に与えるとも考えられています。
インターネット黎明期にGoogleやAmazon、日本ではヤフーや楽天がそうであった様に、こう言った変化が起こる時は、シンプルに、先に始めた者がその覇権を握ります。
AI作曲、始めるなら今かもしれません。

長文にお付き合いいただき誠にありがとうございました。


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