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編集者が持っておきたい時間軸

おはようございます。
先日、読んでいて面白かった本がありました。
『自分とか、ないから。 教養としての東洋哲学』(しんめいP著、鎌田東二監修)です。

とにかく読んでいただければこの本の面白さはわかると思うのですが、気になったのは重ねて言及されているのは執筆の遅れ。
数ヶ月で書くつもりが3年半かかったということが書かれていますが、この時間軸については皆さんどう思われるでしょうか?
「そんなに遅れるのか!」という人もいらっしゃるでしょうが、私は「まあ、そういうこともあるな」と思いました。
特に、巻末に挙げてある参考文献を見てみると、「そりゃ時間かかるわな…」という量と質。
さらに、面白くするための工夫がいたるところに散りばめてあるので、納得してしまったというのが正直なところ。

そんなことを思ったのは、先日、私の所に本が一冊届いたからです。

教育史学者の高野秀晴先生著『石田梅岩』
私がミネルヴァ書房在職中に原稿を依頼した企画ですが、私が現職に移ってきたのは今から6年前。
つまり、それ以上の時間をかけて書かれた本なのです。

特に研究書の場合、10年くらいかかることもザラで、高野先生の本が遅れたというわけではありません。先生方もお忙しいということもありますし、先行研究のレビューや関係者への聞き取りなどにかなりの時間がかかります。時間もお金もかかるのが、本を書くということなのです。

しかし、だからと言ってずっと数年先の企画を待ってばかりしていたら、当面の刊行書籍が無くなってしまう。
それもまた事実。

そこで、すぐに出す企画と、長い目で温めておく企画、どちらも考えておく必要があるのです。
そうやって長い目の企画が増えてくると、数年後にはそうした企画もコンスタントに出てくるようになるわけで。

ビジネス書の場合、企画して半年くらいで出るものも多く、早いものだと2,3ヶ月後に出るものもあります。

要は、こういった多様な時間軸のポートフォリオを組むということになるのですが、言うは易し行うは難し。

学術系であれば、刊行する時期に最先端の情報を捕捉できていればよいので、時間的な制約は緩いことが多い(もちろん例外も多いですが)。
しかし、ビジネストピックだと、今話題のテーマがいつまで持つか、もしくは次に何がくるのかを読むのが難しいという問題もあります。

その点、今回、朝ドラ『虎に翼』にあわせて『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(神野潔著)を刊行したのは、タイミング的に狙いやすかったというのもあります。
加えて、類書があまり出ていなかったこと、女性活躍がホットなトピックであったことなどがありましたが、何より書いてくださった神野潔先生のお力が全てだと思っています。

『石田梅岩』の例を見るまでもなく、人物を描くというのは相当にハードな作業なのです。それを短期間で取材、文献調査を進めて書き上げて下さったことは、感謝しかありません。

企画とは企てる(くわだてる)こと。
意図を持って、社会にコンテンツを等価し、反応を見ながら次の手を打っていく。
人文であれビジネスであれ、そうした動きの中で泳げているのかどうか、自分に問いかける日々です。

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