小屋ガール1

夫が仕事を頑張りはじめた

実は最近、夫が仕事を頑張っている。

「実は最近」という書き出しから滲むとおり、夫は最近まで仕事を頑張っていなくて、絶望的にうだうだしていた。

それが、ほんのちょっとのきっかけで変わった。

それを見て、「あ、彼は頑張ってなかったんじゃなくて、頑張り方がわからなかっただけなんだ」と気づいた。

夫は駆け出しのイラストレーターで、デザイン吉田という。

よくデザイン事務所と間違われるのだけど、デザイン吉田はひとりであり、彼個人の名前だ。本人曰く「キャンドルジュンみたいな感じ」らしい。

イラストレーターなのに、デザイン吉田。本当にややこしい。でも、デザインの仕事もしているので、あながち間違いでもない。

実は、デザイン吉田は2015年から活動している。

だけど昨年までは一年のほとんどを山小屋で過ごしていたため、デザイン吉田として仕事できる時期が短く、単発の案件をちょいちょい受けていた。

夫はちょっと変わっている。

たとえば、彼は二つ折りの手作り名刺を使っているのだけれど、それを小さなタッパに入れて持ち歩いている(サイズがちょうど良かったから)。

そのため、名刺交換のたびにタッパのふたを開ける。へんてこだ。相手の方もだいたいぎょっとしている。

彼には、そういうところが少なからずある。よく言えば「常識に捉われない」人で、悪く言えば「常識知らずのバカ」なのだ。

彼は手先が器用で学力が高く(意外だけど進学校出身)、コミュニケーション能力も低いわけではない。おっとりしていて、スリムクラブの内間さんみたいな雰囲気。周りの人たちからはよく、「人柄だけで食べていけそう」と言われる。

だけど(だから?)なぜか一般社会に適応できない。

結婚前は工業高校のデザイン科で教員をしていた時期があるのだけど、そのときは常にいっぱいいっぱいだった。山小屋も、誰かの下で働いているときは動けるけど、責任者になって最初の一年は常にテンパっていた。

とにかく要領が悪いのだ。

そんな彼は、今年からデザイン吉田一本でやっていく決意をした。

……はずなのに、ほとんど仕事をしない。知人に頼まれたロゴデザインや名刺デザインの仕事をちょいちょいするだけ。仕事をしていないときのほうが圧倒的に多い。

仕事がないときに夫が何をしていたかというと、ただただ、家で絵を描いていた。

もちろん、イラストレーターにとって技術を向上させる努力は大切だ。だけど、ただ家で絵を描いていても仕事が来るわけはない。当たり前だ。誰もデザイン吉田の存在なんて知らないのだから。

私は、「絵を描くのはいいけど、どうかそれと同時進行で営業もしてくれー!!」と思っていた。

だけど、夫は「今は準備中だから」とのんきなことを言い、絵を描くか、ホームページを作っている。

そんなこんなで半年が経ってしまった。

いやいやいや! いつまで準備してんの。早くSNSのアカウント作って、過去に書いた絵を載せて、ポートフォリオ作って、自分から営業に行けばいいのに!!!

……とひそかに思っていた(ちなみに、すでにポートフォリオを作れるくらいの過去作品はある)。

だけど、私自身がはじめてのライター業にいっぱいいっぱいで調子を崩していたこともあり、口出しできる立場ではなかった。

6月。私はnoteでもTwitterでもフォロワーさんが増え始め、note経由でコラムの仕事がきたりしていた。

そこで、夫にnoteとTwitterのアカウントを作るように勧めた。彼はSNSに関心がなくて、ほとんどやったことがなかったのだ。

いちからSNSをやることになった夫。Twitterにイラストや「#観察スケッチ」を載せるようになった。

私としては、SNSを

・「お仕事ください!」と発信する
・仕事したい企業の人をフォローして、積極的に交流する
・イラストレーターを探している企業を探してDMする

といったふうに活用してほしかったけれど、まぁ、いきなりそこまでは無理だろう。

私はひそかに、「自分の絵を人に見せて褒められることで、夫の承認欲求が刺激され、やる気につながるのでは……?」と思っていた。私自身が、noteを書きはじめてそういった変化を感じていたからだ。

しかし、夫はそもそも承認欲求がとても低い。褒められると嬉しそうにしているけれど、「褒められたいから頑張る」という発想はないようだった。


そのうち、私にcakesの連載「小屋ガール通信」が決まった。

ダメ元で「アイキャッチを夫に描かせてくれませんか?」と提案してみたら、あっさりOKしてもらえた。それまでは個人事業主の方からのご依頼が多かった夫。cakesがメディアデビューとなった。

「小屋ガール通信」のイラストを描く夫を見ていて、あたらめてわかった。

夫は、来た仕事はそりゃあもう一生懸命に頑張る。

営業をしないのは、「やる気がないから頑張らない」わけではなく、ただただ、やり方がわからなくて呆然としている間に時間だけが経ってしまったのだろう。仕事さえあれば、頑張るのだ。

私は絶望的に機械オンチで、機械を前にすると何もかもがわからなくて途方に暮れる。きっと、「営業」を前にした夫も、機械の前でフリーズしている私の心境だったのだろう。

いや、しかし。「仕事さえあれば」って、その仕事をどうやって獲得するの?

黙って見守るつもりでいた私は、だんだんと

「ねぇ、この会社ポートフォリオ募集してるよ! 作って送ってみたら?」「あ、イラストレーター募集だって! DMしてみたら?」

と、せっつくようになった。


せっついた結果、夫ははじめて自分からDMして仕事をゲットした。また、Twitterで夫の絵を見た方からのご依頼もぽつぽつ入るようになってきた。

ほら、やればできるじゃん! その調子、その調子。

そんなこんなで、ここ最近の彼は仕事に燃えている。絵を描く仕事が楽しいようだ。

彼がデザイン科の先生をしていたとき、ひとり暮らしのアパートの壁に「絵で食ってく」と書いた紙を貼っていたことを、思い出した。

彼の夢が叶いますように。



というわけで、デザイン吉田はまだまだお仕事募集中です!!

2016年からの制作実績。イラストとロゴデザインだけ載せてます。本当は名刺やフライヤーのデザインもしてるのだけど、ここにはあえて載せてません。

ほっとくとすぐにうだうだする夫を、仕事で忙しい状態にしてやれ!!

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