4色ボールペンだと思えば、恋もしやすいかもしれない
「私ほんと、人を好きになれないんだよねぇ」
友人のうっちーはいつも言う。
彼女はもう何年も恋人がいないらしい。好きな人もできないと言う。
「たまたま出会ってないだけじゃない」
はじめの頃、私はそう答えていた。
だけど、たびたび彼女の話を聞くうち、理由は別のところにあるんじゃないかと思った。
たとえば、彼女は連絡先交換のハードルがものすごく高い。
人見知りなわけではない。同性に対しては、自分から気軽に「サキちゃんLINE教えて~」と言える人だ。なのに、相手が異性になると途端に「男の人にLINEなんて聞けるわけないでしょ!」という感じになる。
彼女にとっての「異性にLINEを聞く行為」は、私にとっての「告白」くらいハードルが高いのだ。
連絡先を聞かれたときも、相手が同性であれば特に何も思わないが、異性であればものすごく動揺するらしい。
「えっ、なんでLINE聞くの? 目的は? もしかして私のこと好きなの? どうしよう、教えていいのかな。でも、気持ちに答えられなかったら……」
と、ぐるぐる考えてしまうそうだ。
連絡先交換でこれなので、うっちーにとって「二人で会う」ことのハードルはものすごく高い。
グループではないLINEも、二人きりで会うことも、相手との1対1の対話だ。
これは私の仮説だが、彼女が人を好きになれない理由は、「1対1の対話の少なさ」じゃないだろうか?
◇◇◇
以前、こんな記事を書いた。
山小屋で一緒に働いていたハルという男の子と、彼の下山後、メールをするようになった。すると、同じ小屋で生活していたときよりも仲良くなった。
私はそれまで、ハルの明るくてお調子者の面しか知らなかった。だけどメールのやりとりをするようになって初めて、彼の意外な繊細さや苦悩を知った。
不思議なもので、同じ小屋で一緒に働いていたときよりも、ハルを近くに感じた。私もハルに、うつ病であることや家出中であることを打ち明けた。
ハルとは、恋愛に発展することはなかった。
だけど、メールを通じて急速に親密になったのは確かだ。
当時のハルは私のことが好きだったらしいし(あとになって彼の友人から聞いた)、あのまま親密さが深まっていたら、私も彼のことを好きになっていただろう。
私は、山小屋での明るくて要領のいいハルには、あまり興味を持たなかった。メールで彼の弱い面を見てはじめて、「もっとハルと話してみたい」と思った。
1対1で話すと、コミュニティにいるときのその人とは違った面が見えてくる。
うっちーは、男性の「コミュニティにいるときの面」しか見ていないんじゃないだろうか。
職場であれば、職場の顔。趣味のサークルであれば、サークルの顔。
その一面だけを見て「好きになれない」と思っているんじゃないだろうか。
◇◇◇
人間はコミュニティごとに顔を使い分ける。
よく「オモテとウラの顔」という表現を聞くけれど、オモテとウラの二面しかない人はよっぽどわかりやすい。だいたいの人は四面も八面も十二面もある。
私は、山小屋ではそれなりにしっかり者だと思うが、夫といるときは甘えん坊だし、友人といるときはお調子者だ。OLだったときの職場では「おとなしい人」と認識されていた。
4色ボールペンみたいなものだ。
このコミュニティでは、赤を出す。ここでは青。こっちでは緑。あっちでは黒。
みんなもそうなんじゃないだろうか。
たとえば、「赤」の人と出会ったとき。
うっちーは「私、赤って好きになれないんだよねぇ」と言う。
だけど、その人は「赤」しか持っていないわけではない。その人は、「青」も「緑」も持っているかもしれないし、うっちーの好きな「黄色」も持っているかもしれない。
だけどそれは、1対1で対話してはじめて見える色かもしれないのだ。
以前、うっちーは私に
「出会った頃はサキちゃんのこと、タイプ違うから仲良くなれなさそうって思ってた。でも話してるうちにすごい好きになっちゃった」
と言ってくれた。私も彼女に対して同じことを思っていたので、嬉しかった。
「話してるうちに好きになること」は、恋愛でもあるのにな。
◇◇◇
「人を好きになれない」という悩みはよく聞く。
だけど、人間関係は「好きだから仲良くなる」だけじゃなく、「仲良くなったら好きになる」パターンもある。
好きになるかどうかは置いといて、とりあえず、もっと1対1で話してみればいいのにな、と思う。
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