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【ショートショート】ヘモグロビンの憂鬱

駅に着くと通勤ラッシュの電車は乗客を弾き出した。
まるで自分は生産ラインから弾かれた不良品みたいだなと思った。
ターミナル駅だというのにホームからコンコースに繋がるエスカレーターは
その乗客数に比べ設計ミスを疑う程に頼りない。
我先にと群がり乗り切れない人々が乗口で根詰まりを起こしている。
その群がりの最後尾に着けながらまるで脳梗塞のようだなと思った。
そして自分もそのヘモグロビンの一つを担っている事に嫌気がした。
まさにヘモグロビンとするならば、周りの者達はこれから社会に酸素を届けることだろう。
しかし自分は何処に酸素を届けるでもない。そんな酸素など持ち合わせてもいない。
ただ一つ分場所を消費しているだけの自分に嫌気がした。
自動改札を抜けていく皆が各々のレースに繰り出す競走馬に見えた。
自分はどこを目指すでもないが流れに沿ってゲートを踏み出す。
大きな流れを止めないように。
全体の邪魔にならないように。
ただそれだけを気にして今を生きている。
やけに空気が涼しく汗ばんだ体を冷やした。
やけに朝日が眩しく現実を白くぼかした。

なのに怖くて変われない。嫌気がした。

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