見出し画像

【ショートショート】『み』と『めめ』

「こんな時に何なんだけど、実は俺生まれつき目と耳の役割が逆なんだよ」
本当にこんな時に何だと相棒の唐突な告白に俺はただ戸惑った。
とある危険な仕事の途中、敵対するマフィアに待ち伏せされ相棒共々拉致された。もうどれくらい時間が経ったかも分からない。
お互い目と口を塞がれ、後ろ手に縛られて自由のきかない状態だ。
俺を勇気づけようと意味のない冗談を吐いているのか。
「いいか、俺には耳が目なんだ。どういうことか分かるか。俺は今見えている。ここは埠頭の倉庫だ。見張りも遠のいた。だからお前に話しかけている」
俺は塞がれたテープ越しに悶えるような音しか出せない。
「今、俺の目…耳にはお前の縛られた手が見えている。指を立ててみろ」
俺は3本の指を立てた。
「3だ」即座に答えた。
何度やっても指の数を正確に答えた。
「どうだ、信じてもらえたか」
俺は縦に首を振った。耳で見えているのは本当のようだ。

「大丈夫。絶対に仲間が助けに来てくれるさ」

もう俺の事を励まさなくていい。
そんな事より俺の方もこんな時に何なんだが…

「言うなれば俺にとっちゃ目は『み』耳は『めめ』って事になるよな」

今お前、どこで喋ってるんだよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?