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【ショートショート】賛成雨

「圭佑起きて!すごい雨だから」瑠美は勢いよくカーテンを開けた。
いきなり起こされて目を開けると土砂降りの雨が窓を打ち付けていた。
雨で何をそんなに騒ぐ必要がある?正直、朝から雨だと気分も乗らない。
「その言い方…晴れてる時に使うやつじゃん」
「ねぇ。天気予報士が『あいにくの雨模様』って言わないの何でか分かる?」
いきなりの質問に何も思いつかず「そうなの?」と眠たさの残る顔を撫で付けた。
「雨が良くない天気って全員に当てはまらないでしょ。例えば農家の人にとっては『恵みの雨』な訳だし。それに…」
無理やり眼鏡を掛けられる。
「この雨は私や圭佑にとっても超恵みの雨なんだから!」
運動嫌いの瑠美が年末の大掃除ぐらいでしか着ないジャージ姿で手にはスマホを掲げている。
「さっき速報アプリでアラートが鳴ったよ。圭佑全然起きないんだもん」
「え、うそ…。まさか本当に!?」
「そう、30年ぶりの『賛成雨』だって。つまり私達は人生初!」
「早く言えよ!」慌てて飛び起きた。
例えば自然災害が自然の厳しさの最たるものなら
賛成雨は自然からもたらされる最大の優しさと言える。
ひと度その雨を全身に浴びれば
不安に押しつぶされそうな挑戦者は勇気の一歩を踏み出す事ができ、
そんな事やっても無駄だと頭ごなしに否定するリーダーも
ダメ元でやってみなさいとチャンスを与えたくなる。
全ての後ろ向きな気持ちを肯定感が包み込み人々に行動力を与えるのだ。
前回30年前降った際には結果的に好景気への起爆剤となり、
後に『賛成景気』と名付けられた。
慌てて運動着に着替えると玄関から外に飛び出す。
「圭佑!傘要らない、傘要らない!」
条件反射で掴んでいた傘を元に戻し、土砂降りの道へ飛び出した。
既に沢山の人が傘も差さず雨を受け止めていた。
ほんのり温かく感じるその雨に打たれて
今心に抱える迷いや不安が洗い流されていく感覚を2人は感じた。

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