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【ショートショート】現代の地動説

ある教授が投じた1つの理論が『現代の地動説』ではないかと物議を呼んだ。
-『卵が先か鶏が先か』と全く同じ因果性のジレンマ。この事に関して論じる価値も意味も無い-
-結果正しかった地動説に例えるのは失礼。あくまで現代の天動説だ-
-ケースバイケースの柔軟性を残した状態が一番自然な形なのではないか-
と大半の評価は否定的なものであった。
様々な指摘を受けて教授は「やはり私の主張は間違っていたようだ。理論の主張は取り下げ、私の負けを認めたい」と発表した。
するとそれみた事かと各所で勝ち誇った反応が示され、ある評論家はその顛末を纏め書籍化すると瞬く間にベストセラーとなった。
しかし、暫くすると不思議な事が起こった。
-もしかしたら教授の理論は正しいのではないだろうか-
-しかも私達自身でその理論が正しい事を証明しているのではないか-
という声が湧き出したのだ。
その声を受けて沈黙を保っていた教授は再び口を開いた。
「この現代に生を受けた結果、自然な成り行きの中で我々は常に勝者になる事に憧れて生きている。そこは決して間違ってなどいない。そして今更勝負の価値を変える気もない。勝ちは尊く、同時に負けも尊い。
しかし勝者の存在が敗者を生むという考え方の1点においてのみ納得ができないでいるのだ。敗者は勝者の副産物ではなく、敗者の自覚により勝者が生みだされるというのが改めて私の掲げる理論だ。
矛盾するが勝者になりたい私は試しに一度本気で『負け』を受け入れた」

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