【ショートショート】観察キット

蟻の観察キットに充填されたブルーのジェルは食料と住居を兼ねている。
ただ眺めるだけでは気づかないがよく観察していると驚くべきことに文化的な暮らしぶりが垣間見えた。
ある部屋では年長者が若者を教育していたり、観客を入れて演劇をしていたり、驚いたことに刑務所のような部屋もある。飲食店のような部屋に行列をつくる蟻も見受けられた。
するとある部屋に一匹だけで何もせずに留まる蟻を見つけた。
散々文化的な蟻を見たせいで異質に感じるが、むしろこっちが普通なのかもしれない。逆に興味深くなり観察しているとたまに部屋の外に出ることもあるが、ほとんどの時間は部屋で過ごしじっとしていることが分かった。
肉眼で観察するには限界があり拡大鏡を準備した。
その蟻は自らが吐き出した蜜のような青い粘液をジッと眺めているようであった。
そしてその粘液の中には何やら蠢く微生物らしき存在が確認できた。
こいつ…
もしかして他の生物を観察しているのか。

ふと何かに引き寄せられるように、でも無意識に窓の外を見上げた。
そこにはブルーの空が何処までも広がっている。