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【ショートショート】佐藤様

「ボス。佐藤様がお越しになりました」
「お通ししろ」
薄暗い地下事務所にアタッシュケースを携えた佐藤が通される。
一番奥の部屋に入ると革張りのソファに恰幅のいい男が座っていた。
「佐藤さん。お待ちしておりましたよ」冷静を装いながら視線はケースに釘付けになっている。
佐藤は部下にケースを手渡し、男と応接テーブルを挟んでに向かい合う形でソファに腰をおろした。
部下がテーブルにケースを置き中身を確認すると袋詰めの白い粉がギッシリ詰まっていた。
一つを取り出し、男に手渡した。袋を開け、少しつまんで舌に乗せる。
目を瞑り吟味する男。ピンと空気は張り詰める。長い沈黙が流れた。
「…上物だ。おい、お渡ししろ」
部下は別のアタッシュケースをテーブルに置き佐藤に差し出した。
佐藤が中身を確認する。ぎっしり敷き詰めてある札束の中から一つを取り出すと、本のページをめくるように中身を確認する。
佐藤はコクリと頷いた。
「今後ともよろしくお願いしますよ」ボスが手を差し出すと佐藤は応え、がっちりと握手を交した。
「よし、早速準備しろ」部下に命じると、席を立ちかけた佐藤を手で制した。
「もしお時間に余裕がありましたらご一緒しませんか?」男は佐藤に向け不敵な笑みを浮かべた。

「兄貴、そ、それ…本物ですか?」
「ボスが早速ヤる。ヤスも手順を覚えろよ」袋を破り計量する。
「そ、そんな大量に使うんすか!?」
「ああ、大体一回に60から80gは優に使う。これが昔は合法の時代もあったって言うんだから驚きだ」
「…ちょっとだけ味わってみてもいいすか?」
「やめろ!戻れなくなるぞ!常用出来る環境が無いなら知らない方が幸せだ」

「ボス。お待たせしました」
ボスと佐藤の目の前にカットされたショートケーキが並ぶ。
「うーん。美しい」フォークで半分程すくうと豪快に頬張った。
「甘いねぇ」強面の二人の顔が一気に破顔した。
「あのボスが一瞬で…」ドアの隙間から覗いていたヤスは恐怖した。
空のトレーを抱え部屋を出てきた部下がヤスの肩を掴み耳を口元にぐいと引き寄せた。
「ボスがとんだ。あれが砂糖の恐ろしさだ」

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