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【ショートショート】食歴社会

面接官は履歴書の食歴欄にフォーカスを当てると緊張した面持ちの受験者に質問を向けた。
「食歴欄を確認したところ不規則な時間に外食をしていたり、またジャンクフードの摂取の割合が多いようですが。自炊はされますか」
「何度かチャレンジはしましたが、料理が苦手で自炊は…。ですが持病も無く健康には自信があります」受験者は答えた。
「そうですか。あと、非常に好き嫌いが激しいですね。当社で働くにあたり野菜を多く食べることは可能ですか」
「野菜…ですか。どうしても人参はだめなのですが、生野菜じゃなければ多少は食べられるかと…思います。でも学歴欄をご覧ください。私はZ大学の経済学部を卒業しましたので御社では即戦力として…」
すみませんと面接官は受験者の言葉を制した。
「計画や判断といった重要な局面は全てAIが取り纏めます。今現在、求められる人材はAIの指示を長期に渡り忠実に実行できる人材なのです」
「それでは学歴の意味が…」
「そうです。学歴より長期間健康で従事できること。そのバロメーターとして日頃の食歴の方が重要なのです」

肩を落とし退出する受験者の後ろ姿をAI面接官のモーションカメラが見送るように追尾した。

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