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【ショートショート】下町のクリスマス

まだ私の名前がサンタさんの配達リストに載っていた頃の話。
「うちは煙突もないし、今日は玄関の鍵開けといてもいい?」
母に懇願するも「余計に泥棒も入ってくるからあかん」と一蹴された。
そして世界中一晩でプレゼントを配るのにこんな下町まで来てられない、そもそも良い子にしかサンタは来ない。
と母は悪戯に伏線を張った。
数日前のTVニュースで『サンタさんへの手紙』という存在を知った。
その手があったのかという驚きと、もう手遅れだという絶望が渦を巻いた。
サンタはこの街を通り過ぎるかもしれないし、自分の欲しい物も伝わっていない。
胸は期待で膨らまず不安で満たされた。
布団に入るも違うドキドキで眠れなくなってしまった。
早く寝やんとサンタ来ーへんよと母は言うも、早く寝かしつけたい詭弁にしか聞こえなかった。

喜びが寒さに打ち勝ち飛び起きた朝。
枕元のソレに心が震えた。サンタすげえ。
母はよかったねと言い、二日酔いの父はサンタに会うたぞと豪語した。

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