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【ショートショート】三面鏡

私はページをめくる。

現実ってなんだろう。そんな哲学的で小難しい疑問を抱いたら
友人がこの小説を紹介してくれた。
よく考えたら今までありそうで無かった設定なのだが、小説の中で主人公はある小説を読んでいるのだ。
私は小説の中に描かれている現実というものにひどく惹かれる。
今自分の存在する現実とはちょっと趣の違う理想的な現実だと感じてしまうのだ。

私はページをめくる。

小説の中の主人公はとても理不尽な仕打ちに苦しんでいた。
それを読む私も今、理不尽な仕打ちに苦しんでいる。
しかし小説の中では苦悩や挫折、堕落ですらなんだか様になる。
客観的に描かれる事によって不幸な状況も他者と共有され負のエネルギーであれしっかり燃焼しているイメージなのだ。
一方それを読む私はどうだ。付き纏う不幸は誰に気づかれるでもなく不完全燃焼のままだ。
誰かのせいにして居直る事でしか今の自分を正当化できないなんてなんと無様な事か。

私はページをめくる。

おや。気が付いたかい。私は今小説を読んでいる。
そんな私を今あんたは読んでいる。
私が現実と思っている世界はあんたにはどう映る?
そもそもあんたが今現実と思っている世界は本物かい?
さらに誰かに読まれている世界。それは永遠に続く三面鏡。
そんなのは違うと果たして言い切れるかい?

私は本から視線を外す。
混乱してきた。私は今何処にいるのだ。
「これを読んでいるあんた。あんたはちゃんと自分の現実を生きているかい?」
私は徐ろに前を見た。

あんたと目が合う。

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