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【ショートショート】自分国

その国の旅行者はバックパッカーばかりだ。
彼らの旅の目的は…ちょうど誰か来たようだ。実際にご覧いただこう。
***
「はじめまして、ご一緒していいですか?」まだ顔に幼さを宿した青年は会釈した。
「もちろん。君は『探し』だね。その眼で分かるよ」
「ということは貴方は…。実際この一週間『自分探し』の方にしか出会えなかったので嬉しいです」
「もしそうだとしても君のお眼鏡に叶うかどうか。先ずは乾杯でもしようじゃないか」
「ご謙遜を。最終的に決めるのは貴方です」
2人は酒で乾杯し、お互いの素性を語り合った。

「…では、貴方も以前は自分探しでこの国へ?」
「そうだ。あの頃は私も今の君のような眼をしていたよ」
「なんというか。まだまだお若いようですが…本当にもう良いのですか?」
「ああ。もう十分に自分はやりきった。実はね。私もここである人物から譲り受けたんだ。ちょうど君くらいの歳だった。この『自分』はかなり個性的だぞ。それでもいいのか?」
「はい。貴方のような『自分譲り』を探していました」
「きっとこれも運命だな。私の自分、君に譲ろう」
そして2人は改めて乾杯を交わした。
 ***
翌朝
近くの河には青年の姿があった。
何やら布に包まれた大きな物体を河に流している。

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