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【ショートショート】憑き物の予約

カランコロンと扉が開いた。
「いらっしゃいませ。おや、先日はいかがでしたか」
つい2週間前に来店した客なので店主は顔を覚えていた。
「小バエで散々な目にあったぞ」
「それは申し訳ございません。予めご了承いただいたハズですが…」
「苦情を言いに来たんじゃない。肝に銘じて早々に来年の予約を取りに来たんだ」
「そうでしたか。承知致しました」と店主は棚から商品メニューを取り出した。
「何!?もう売り切れがあるのか」
「はい。やはり人気の憑き物はシーズン終了と同時に来年度の申し込みがありますので」
「こっちもあっちとあんまり変わらないんだな」
「お客様のように初盆の方は、やはり直前に来られて似た失敗をされますね」
「売れ残るようなものは一覧から外してもいいんじゃないの?」
「仕組み上出来ないんです。例えば蝶は人気があるのですが期間中に街中が蝶だらけになってもおかしいので。
バランスよく配置して現世に違和感が出ないようにしないといけないんですよ」
そういうものかと客は一覧を吟味する。
「なるほど、蜘蛛くもも人気なのは頷ける。そもそもが益虫の認識があるしな。もうこの段階で良いのは売り切れなんだな」
はぁと客はため息をついた。
店主はメニューを手に取るとパラパラとページをめくり
「意外とこちらはおすすめです。不殺生戒ふせっしょうかいの恩恵を受けやすく、何より一番近くでご家族の方々を感じる事ができますので」
客は向けられたメニューを見てハハっと声を上げ笑った。
「そうだそうだ。そもそも私も祖母から初めて教わった時はコレだったんだ」
腕に止まった蚊を殺さずに弟と見守るお盆の思い出が蘇った。

「来年は蚊を試してみるか」

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