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【ショートショート】つかえ

様々な機械音が時に共鳴し、時に打ち消し合う製造工場。
建物のダクトや煙突から定期的に蒸気を噴出する様は、まるで巨大な生物が息吹をあげているようだ。
その内部は様々な機械がベルトコンベアーによって繋がれ、そこを流れる部品はさながら血液のようでもあった。
大勢の労働者がそれぞれの持場で己の作業を黙々とこなしてゆく。
流れを止めることがないように休みなく手を動かし己の技に磨きをかけてゆく。
しかしながらどれだけ注意をしていても、突如とし労働者の動きが止まる。
千を超える労働者の中からポツリポツリではあるが、確実に労働者はその手と止めてしまうのである。
さすれば監視者が直ちに駆けつけ、振り上げたつちを労働者の頭に振り下ろす。すると衝撃で労働者の口からつかえ●●●は吐き出され、再び労働者は動き出すのだ。

「いいか。球にこのように穴を空けるんだ」熟練工は新人に言った。
「この作業で俺の右に出るものはいない。次の工程でここに刺さる棒のことを意識して穴をあけるんだ」
はいと新人は返事をした。
まだ作業に不慣れな新人がレーンの上手で取りこぼした球も、下手の熟練工は手際よく手直し処理をした。
「先輩ひとついいですか」必死に手を動かしながら新人は口を開いた。
「僕たちは一体何を作っているんでしょうか?」

二人の労働者の動きが停止している。
監視者は槌を手に二人の元へ慌てて駆けつける。


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