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【ショートショート】300年後のお正月

2323年元旦。
「あけましておめでとう。今年も皆が健康にこうやって集まれてよかった」
親戚一同集まる食卓にはご馳走が並ぶ。
「おばあちゃん。これなあに?」幼い孫の一人が聞いた。
床の間には台上に丸餅を二段重ねた形の鏡が鎮座していた。
「これはね、餅鏡といって昔からお正月にお飾りするの。みんなの健康を祈る意味があるのよ」
「我が家の餅鏡は立派だよな。まだ親父が若い頃買った代物だろ。100年物らしいぜ」
そうだったわねと母親はリモコンを手に液晶遺影ディスプレイを曽祖父から夫の画像に切り替えた。
「さ、みんないらっしゃい。これがお目当てでしょ」孫たちがワッと浮足立つ。
孫たちの手のひらの上に丸い焼き菓子が次々落とされていった。
「お、母さんの玉おとし。絶品だからなぁ。俺も貰おうかな」
「大人の分はありませんよ」
「兄さん。そのやりとり去年も言ってたよ」食卓に笑い声が響く。
「さて、やるか!あげ蛸」
息子は紐を括り付けた茹で蛸を手に孫達と外に出ていった。
母親達はうるさいのが居なくなったと一息つき、お茶をすすった。

「変わらないって本当に大事なことよね」

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