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-リメイク再掲載-【ショートショート】落札者は誰だ

民間人で初めて宇宙旅行に行った実業家の事をテレビが報じている。
値段の安さとアルコール度数が反比例する缶チューハイをあおりながら
「世の中不公平だなぁ」と、ありとあらゆるモノを棚に上げて男は愚痴を吐いた。
男は『何かで成功したい』という野心があった。
ただその『何か』が定まらず安直な野心に他ならなかった。
昨今の起業は大抵IT業界というきらいがあるが
この男、当然そんな知識など持ち合わせていない。
要するにこの男、楽して金を稼ぎたいだけなのである。
視線をテレビ画面から窓へと移す。
見つかる訳のない宇宙ステーションを探すように夜空を見上げた。

夜空には満月が輝いていた。
「あ」
男はノートパソコンの上に雑多に置かれたおつまみを払い除けると
ブラウザを起動させた。
男は何かに取り憑かれたようにキーボードとマウスを交互に操作し画面を凝視する。
「よし。月でいけるなら他でもいけるだろ」とすわり始めた目でニヤける。
あろうことかフリマサイトに太陽系の惑星を次々出品したのである。
昔、海外では月の土地を販売していると知り驚いた事を思い出したのだ。
しばらくは画面を注視しながら飲んでいたが、当然誰からも相手にされず虚しく時間は過ぎていった。冷蔵庫に新しい酒を取りに行く頃には既に関心は失せていた。
ピコン
酔いと眠気で遠のきかけた意識がパソコンの通知音に呼び戻されると男はパソコンの画面にかぶり付いた。驚くことに一番高値を付けた太陽に落札の申し出があったのだ。
しかもコメント欄に『太陽は購入後、持ち帰る事は可能ですか』と問い合わせが記してあった。
「ふざけやがって」と、どの口がほざくとばかり男は半笑いで独りごちた。
そして『もちろんです。そうして頂けるとこちらも助かります』と鼻で笑い返信しノートパソコンを閉じるとそのままベッドに突っ伏し眠りについた。

ぐっすり寝た男が目覚めると何故かまだ夜だった。
やけに外が騒がしい。


私2月にnoteを始めたのですが、始めるにあたり気合も入っておりまして
最初に投稿した3本のショートショートは個人的にもお気に入りの作品になります。
この『落札者は誰だ』はそのうちの1本で、まだ多くの方の目に届くような状態では無い時に投稿し、そして過去作品として埋もれていってしまった事を少し嘆いておりました。
この作品を1人でも多くの方に読んで頂きたい。
というのは建前で、
このまま埋もれていってしまうなんて嫌だ嫌だ嫌だ、
何とかしてもう一度光を当ててやるんだという歪んだ親心が本心です。
文章を見直し、表紙絵も刷新し新しい作品として最善を尽くしましたので、
リメイクでの再掲載をさせて頂きました。           吉田図工


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