見出し画像

-リメイク再掲載-【ショートショート】ハッキリ見えるのに

ある丘に1本の大木がありました。
A氏はその大木をいたく気に入っており
まるで自分を見守る存在だと信じ愛していました。

ある日の昼下がり、その大木が望めるカフェのテラス席でA氏は大木への熱い想いをB氏に話しました。
「丘に大木?何を言っているんだい。そんな木どこにも無いじゃないか」
B氏は辺りを見回して答えました。
いやいや、見えているじゃないかとA氏。
2人の主張は一向に噛み合いません。そこに遅れてC氏がやって来ました。
2人は我先にと事情を説明しC氏の答えを待ちました。
2人が指差す方向をじっと見つめるC氏。
「悪いが私にもそんな木は見えない」とC氏は答えました。
落胆するA氏。でもどうしても納得ができません。
なんせ目の前にハッキリと見えているのです。
もしかして2人でグルになって私をからかっているのではないだろうか。
A氏は傍に居た店員を呼び止め、事情を説明し意見を求めました。
店員はA氏が指差す方角を見つめると顎に手を置き下を向くと黙って考え込んでしまいました。
「どうした?気を使わずに正直に言ってくれ」とA氏は返答を急かします。
店員はゆっくり顔を上げ、A氏の目を真っ直ぐ見つめました。
「失礼ですがお客様。視力はおいくつですか?」
意表を突かれた質問にA氏は思わず他の2人と顔を見合わせた。

「78.5だよ。最近少し悪くなったがな」


私2月にnoteを始めたのですが、始めるにあたり気合も入っておりまして最初に投稿した3本のショートショートは個人的にもお気に入りの作品になります。この『ハッキリ見えるのに』はそのうちの1本で、まだ多くの方の目に届くような状態では無い時に投稿し、そして過去作品として埋もれていってしまった事を少し嘆いておりました。この作品を1人でも多くの方に読んで頂きたい。というのは建前で、このまま埋もれていってしまうなんて嫌だ嫌だ嫌だ、何とかしてもう一度光を当ててやるんだという歪んだ親心が本心です。文章を見直し、表紙絵も刷新し新しい作品として最善を尽くしましたので、リメイクでの再掲載をさせて頂きました。       吉田図工


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?