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【ショートショート】トンセンコ

例えばエアコンは不定期にTアラートが発生すると一時停止する。
朝からつけっぱなしだったかしらとリモコンを手に取ると『T』とだけ印字されたボタンを押す。
するとエアコンは暖かな風を再び吐き出し始めた。
リビングを念入りに走っていたロボット掃除機もアラート音と共に『ナゼワタシハソウジバカリシテイルノデショウカ』と声に出し虹色にLEDを点滅させた。
まだこの段階では自力で充電ドッグまで戻る事が可能なので、本体のTボタンを押す。
充電ドッグまで戻ると虹色のLEDは正常を意味する緑色に戻り、再び掃除へと走りだすのである。
そうこうしていると台所でもアラート音が鳴り、駆け寄ると炊飯器の液晶画面にTマークの表示。
ここはトンセンコが足りず電子レンジと共有しているので一旦電子レンジのを抜き、改めて炊飯器のを指してTボタン。
少し不便だなぁと感じつつ手に持ったT字型をしたプラグを見つめる。

トンセンコ。
より人類の感覚に近い高度なAIを搭載する様になった家電製品は飛躍的にその性能を増した。
が同時に弊害として不定期に自身について疑問を抱くようになってしまった。
その思考の不純物を排出するために電気供給とは逆の機構が必要となる。
そしてトンセンコが開発されコンセントとセットで必須のインフラとなった。

洗面所からアラート音。
きっと洗濯機だろう。
不思議なことに1つアラートが出ると共鳴する形で他の家電に伝播する。
あと2,3箇所出るかもしれない。
洗濯機のアラートを止める
「…私は何故こんな事をしてるんだろう」そう独りごちた。
すると右手首が折れ開き中からT字のプラグが飛び出した。

家政婦ロボットは自身のトンセンコをじっと見つめている。

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