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【ショートショート】多様性相談室

待合室に入ると、ちょうど面談を終え出てきた先客と鉢合わせた。
先客は明らかに肩を落としており、私を見るなり「僕は恐らく無理かな。やっぱりなんだかんだ、ぐうの音も出ないですよ」
と私と並んで長椅子に腰掛けた。膝の上に置いた私の問診票を覗き込む。
「へぇ。あなた漢字だとそう書くんですか」
「そうなんです。生意気そうでしょ」と私は自嘲する。
「でも確かにそうですね」先客の目線に促される様に窓に目を移す。
外は雨が降っている。

「私達にも多様性を認めてもらいたい!」
気がつくと受付に大勢が詰めかけており騒々しい。
「申し訳ありませんがあなた方には多様性は認めらないんです」受付担当者は声を張り上げた。
「あの方々は『専属』なんで無理ですね」先客は言った。
「ご存知なんですか?」「全員は知りませんが、先頭にいるのは『たらちね』と『ちはやふる』ですね」
ああ枕詞、と私は彼らの運命に同情した。私の名前が呼ばれる。
それではと先客の『ぐうの音』さんに会釈をし問診室へと向かった。

「失礼します」部屋に入ると相談官は窓の外を眺めていた。
「いやー今日はあいにくの天気ですねぇ」相談官は笑顔で言った。
私は苦笑いし問診票を手渡した。
「あ…」相談官はしまったと眉を寄せた。
「…生憎あいにくさんでしたか」

「はい、天気関連の言葉以外との接続の多様性を模索しているのですが…」

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