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【ショートショート】AとBの取り違え

報道陣と中継カメラがひしめき合う謝罪会見の会場。登壇したスーツ姿の男は神妙な面持ちで頭を下げた。一斉にカメラのフラッシュが焚かれる。
十数秒下げ続けた頭をゆっくりと上げると、十数本のマイクがセッティングされた席に着席する。席の前に設置された名札には『日本血液型協会 会長』の肩書が記されている。
そして再び短く一礼し、うやうやしく口を開いた。
「えー、この度は……ABO式血液型において、長年に渡りA型とB型の基本性格を取り違えていたことを深くお詫び申し上げます」
記者達が一斉に手を挙げると、司会者は一箇所に偏らないように前後列に行き来するように当てていった。
「Qテレビの岡本と申します。私はB型です。今日からいきなり几帳面に生きろと言われても困ります」
「R新聞の林です。『A型の割に大雑把だ』と長年言われ続けてきました。同じ境遇のA型の方々には相応の賠償が必要になるのではないでしょうか」
「週刊Zの菊池と申します。協会は昨年から事実を把握していたのでは、との一部報道があります。その間、誤った血液型占いを信じて行動した方々への保障はどうなさるおつもりですか」会長は頭を下げ続けた。
「私はAB型です。O型も含め、残された血液型は問題ないのでしょうか。私は二面性がある、天才肌であるというAB型の特性をとても気に入っています。この事実が明るみになった今、今週末に予定している合コンで血液型で悦に浸ることに支障をきたすことは避けられません。今後の対策についてお聞かせください」
男は改めて姿勢を正した。
「はい、その件に関しまして、我々も内部で度重なる協議をした結果、抜本的な解決をはかろうと。従来の基本性格は……廃止致します。昨今の多様化の波に即し、今後は血液型に囚われず、皆様お一人お一人でお好きな基本性格を宣言して頂けます」
「…それって…」ある記者が声をあげると同時に、協会スタッフの一人が慌てた様子で、司会者の元へ駆け寄った。何やら耳打ちを交わすと司会者は驚いた表情で何度かスタッフに聞き直していた。そして報道陣に向け、割って入った。
「すみません。突然のことでこちらも混乱しているのですが。今入った情報によりますと、この生中継の放送をうけて、日本星座協会もお話があるということで、もうこちらにお越しなんですか?……はい。もうすでに会長様がこの会場にお越しだ……そうです」
呆気にとられる報道陣を尻目に、新たな男が登壇すると報道陣に向け一礼した。手渡されたハンドマイクを持ち、うやうやしく口を開いた。

「突然このような形で申し訳ございません。本日は双子座と蟹座についてお話があって参りました」

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